ウロモジュリン - 医療従事者向け -
- 臼井亮介
- 6月17日
- 読了時間: 13分
更新日:6月24日
こんにちは。株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介です(日本腎臓学会専門医・指導医)。
血中ウロモジュリン測定は日本ではあまり知られておりません。一方で、欧州ではこの検査機器が体外診断用医薬品として承認されている国もあり、一定の認知を得ています。私はこの検査の開発に携わった経緯から特別な思い入れがありますが、それを差し引いても、この検査がもたらすメリットは、腎臓領域にとどまらず多方面に及ぶと考えています。
医療機関に紹介すると、「初めて聞いた」「最近出てきた検査?」「エビデンスはあるのか?」といった反応をいただくことも多くあります。そこで本稿では、ウロモジュリンおよび血中ウロモジュリン測定に関して、現在得られているエビデンスを中心に、期待や展望も含めて解説します。やや専門的な内容になりますので、タイトルには「医療従事者向け」としましたが、医療従事者でなくても、ご関心のある方にとっては示唆に富む情報になるかと思います。ぜひお読みいただければ幸いです。

●ウロモジュリンのタンパク質としての特徴

ウロモジュリンは、腎臓にのみ発現する極めて臓器特異性の高いタンパク質であり、腎臓の中でもヘンレ係蹄の太い上行脚から遠位尿細管近位部までの尿細管上皮細胞に限定的に発現しています。全長640アミノ酸から成り、プロセシングおよび糖鎖修飾を経て成熟すると、分子量約85kDaの糖タンパク質となります。

ウロモジュリンは、尿細管の管腔側にGPIアンカー型膜タンパクとして位置し、プロテアーゼにより切断されることで尿中に放出されます。1日約50mgが産生され、生理的蛋白尿の大部分を占めています。
ウロモジュリンは尿中ではZPドメインを介して凝集する性質があります。ウロモジュリンは尿沈渣で見られる円柱の基質であり、ウロモジュリンのみが凝集したものが硝子円柱、糸球体由来の赤血球とウロモジュリンが凝集したものが赤血球円柱です。ウロモジュリンの尿中1日排泄量と腎機能、血中ウロモジュリン濃度と腎機能は正の相関関係にありますが、尿中のウロモジュリンは凝集すると定量性が不良となることから、今では尿中ウロモジュリンを測定することはほとんどなくなりました。一方で、血中ウロモジュリンは凝集せずに単体で循環することから、血中濃度は安定した測定が可能となっています。
●血中ウロモジュリンはどこから来るのか
血中に検出されるウロモジュリンは尿細管間質に位置する毛細血管から全身血流に乗ります。尿細管上皮細胞から間質への移行については、主に2つの経路が想定されています。
尿中に放出されたウロモジュリンが、尿細管上皮細胞間隙を経て間質へ拡散する経路(back leak)。
尿細管上皮細胞の基底膜側に微量に存在するウロモジュリンが、基底膜から直接間質へ放出される経路。
これらのメカニズムは、血中ウロモジュリンが間質性腎炎や尿細管障害のバイオマーカーとなりうる可能性を考えるうえで重要です(後述します)。
●血中ウロモジュリン濃度はeGFR値の関係
血中ウロモジュリン濃度は、推算糸球体ろ過量(eGFR)と高い正の相関関係を示します(相関係数 r=0.8〜0.9)。血中濃度は、腎機能が保たれていると高く、腎機能が低すると顕著に低下します。この知見は私だけでなく、複数の研究者によっても再現性のある結果として報告されています。また、測定値の幅が大きく腎機能の変化や推移を視覚的に把握しやすいという特長や、後述する様々なエビデンスから、新たな腎バイオマーカーとしての可能性が注目されています。

参考文献:
□ Serum uromodulin concentrations correlate with glomerular filtration rate in patients with chronic kidney disease. Pol Arch Med Wewn. 2016,126:995.
□ Plasma Uromodulin Correlates With Kidney Function and Identifies Early Stages in Chronic Kidney Disease Patients. Medicine (Baltimore). 2016,95:e3011.
□ Serum uromodulin-a marker of kidney function and renal parenchymal integrity. Nephrol Dial Transplant. 2018,33:284.
□ Serum uromodulin is a novel renal function marker in the Japanese population. Clin Exp Nephrol. 2021,25:28.
●機能ネフロン量の指標としてのウロモジュリン
いわゆる腎機能は糸球体ろ過量(GFR)のことを指しますが、ウロモジュリンはその分子量の大きさから糸球体フィルターを通過できず、本来はGFRそのものの推定には適しません。にもかかわらず、血中ウロモジュリン濃度がeGFRと相関するのは大変興味深いことです。
そこで、ウロモジュリン研究者は、ウロモジュリンが反映しているのは「機能しているネフロンの量(functioning nephron mass)」と考えています。すなわち、血中ウロモジュリン濃度は、「腎臓の生命力」を"見える化"した指標とも言えると思います。「砂時計や、ゲームキャラクターのヒットポイント」をイメージすると捉えやすいと思います。

腎機能が保たれている人の血中ウロモジュリン濃度は200~400ng/mLと幅広いことが分かっています。また、健康的な20代の人たちにおいても、さらに、実測腎機能検査であるクレアチニンクリアランスやイヌリンクリアランスで腎機能が保たれていることが証明された人においても血中ウロモジュリン濃度は様々であることが分かっています。つまり、腎機能が保たれている人における血中ウロモジュリン濃度は優劣を示すものではなく、あくまでも個体差であって、まさしく、ゲームキャラクターごとの最大ヒットポイントです。そして、理由のいかんに関わらず、ヒットポイントを使いきったら透析が必要となります(ゲームとは異なり回復の呪文がないのが残念です…)。
腎臓のヒットポイントを考える上でネフロン数について考察することは示唆を与えてくれます。ネフロン数は、教科書には片腎あたり100万、左右併せて200万と書かれていますが、近年の研究で日本人の平均的なネフロン数は欧米人よりも3割は少ない、60~70万と言われています。また、早産で生まれるとネフロン数が少ないこともよく知られています。ヒトは、100万程度のネフロンを発生させる遺伝子的なプログラムはなされているものの、全てが成熟するわけではないということです。このようなネフロン数の違いが、血中ウロモジュリン濃度に個体差として現れている可能性も考えられます。
●ウロモジュリン遺伝子多型と将来の腎機能
1990年代以降、遺伝子解析技術の目覚ましい進歩によって、一塩基多型SNP(single nucleotide polymorphism)の網羅的解析研究GWAS(genome-wide association study)が進展し、腎臓病に関連する候補遺伝子の同定が進みました。その中で、ウロモジュリン遺伝子(UMOD)のSNPが、将来の腎機能低下と有意に関連することが複数の研究で報告されています。
最初の報告(下図)では心血管疾患患者におけるGWASからその関連が示されましたが、その後、さまざまな母集団の研究においてもUMODのSNPが一貫して検出されています。これにより、ウロモジュリンのSNPは、腎機能の予後を規定する重要な因子の一つとして広く認識されるようになりました。

参考文献:
□ Multiple loci associated with indices of renal function and chronic kidney disease. Nature genetics. 2009,41,712.
●ハードエンドポイント寄与マーカーとしての血中ウロモジュリン
慢性腎臓病(CKD)の概念が提唱されたのは2002年、臨床にeGFRが導入され始めたのが2005年前後です。CKDはその悪化による透析リスクばかりが注目されがちですが、実際には透析に至る症例は全体のごく一部に過ぎません(CKD患者数2,000万人に対して、透析導入患者数は毎年約4万人と全体の1%未満です)。一方で、CKD患者は心血管疾患(狭心症や心筋梗塞)、脳血管障害(脳梗塞や脳出血)、易感染性(感染症にかかりやすくなる)、骨粗鬆症(骨折しやすくなる)、認知症など、命や生活に関わる様々な重要な疾患の発症リスクが高いことが問題です。事実、多くのCKD患者さんは透析が必要とされる前に、これらの病気をきっかけに命を落とされています。
2017年に報告された研究では(下図)、心臓カテーテル検査を受けた患者において、血中ウロモジュリン濃度と全死亡リスクの関係を検討しています。血中ウロモジュリン濃度を4群に分けて解析した結果、濃度が低い群ほど生命予後が不良でした。注目すべきは、この解析がeGFR調整後でも有意だった点です。すなわち、ウロモジュリンはeGFRとは独立して生命予後に寄与する可能性が示唆されています。

その後も、様々な疾患背景を持つ集団で、血中ウロモジュリンが「ハードエンドポイント寄与マーカー」として機能することを示す研究が次々に報告されています。興味がありましたらぜひ論文を手に取ってご覧ください。
参考文献:
□ Serum Uromodulin and Mortality Risk in Patients Undergoing Coronary Angiography. J Am Soc Nephrol 2017,28:2201.
□ Serum uromodulin and progression of kidney disease in patients with chronic kidney disease. J Transl Med. 2018,16:316.
□ Association of Serum Uromodulin with Death, Cardiovascular Events, and Kidney Failure in CKD. Clin J Am Soc Nephrol. 2020,15:616.
□ Serum uromodulin and risk for cardiovascular morbidity and mortality in the community-based KORA F4 study. Atherosclerosis. 2020,297:1.
□ Association of serum uromodulin with mortality and cardiovascular disease in the elderly-the Cardiovascular Health Study. Nephrol Dial Transplant. 2020,35:1399.
□ Associations of Baseline and Longitudinal Serum Uromodulin With Kidney Failure and Mortality: Results From the African American Study of Kidney Disease and Hypertension (AASK) Trial. Am J Kidney Dis. 2024,83:71.
●ウロモジュリンの歴史と論文数のトレンド
ウロモジュリンには別名「Tamm-Horsfall protein(THP)」があり、1950年に初めてTHPとして記載されました。その後、妊婦の尿に多く含まれるタンパク質として1980年代にウロモジュリンという名称で報告され、その数年後にこの2つが同一タンパク質であることが明らかになりました。しかし、現在も名称統一がなされておらず両名称が使われています。
PubMedで検索すると、2025年6月時点で「ウロモジュリン」で1,597報、「THP」で1,952報の論文が抽出され、総数としては十分なボリュームがあります。創薬ターゲットとしては注目されてこなかったため臨床現場での露出は限定的でしたが、堅実にエビデンスを積み重ねており、論文数も右肩上がりのトレンドを示しています。決してエビデンスレベルの低い分野ではないことをご理解いただけるものと思います。

●尿細管間質マーカーとしての期待
急性腎障害(AKI)の中でも、急性尿細管間質性腎炎や尿細管障害は極めて重要な病態です。とくに間質性腎炎は、主に薬剤に対するアレルギー機序によって引き起こされますが、腎臓専門医であっても診断に苦慮することが少なくありません。私たちは、こうした病態において、血中ウロモジュリン濃度が著明に上昇することがあると報告しており(下図)、これは間質性腎炎や尿細管障害の診断補助マーカーとしての可能性を示唆するものです(特許:第7130313号)。ウロモジュリンはこれらの病態の診断精度の向上に資する新たな指標として、臨床応用が期待されます。

2024年に紅麹サプリメントによる腎障害が社会的な問題として注目を集めました。初期の数例がマスコミで報道されたことにより、サプリを使用していた多くの方が不安を感じて病院を受診し、結果的に約200例にもおよぶ腎障害症例が明らかになりました。そして、腎生検が行われた102症例のうち、50.0%が急性尿細管間質性腎炎、32.0%が尿細管壊死を呈していたと報告されています。この事例は、間質性腎炎は患者自身が気づきにくく、医師でさえ積極的に疑わなければ見落とされるという現実を改めて浮き彫りにしました。その背景には、間質性腎炎を的確に捉えるための信頼性の高い検査法がほとんど存在しないという課題があります。
血中ウロモジュリン濃度の上昇が、これらの病態でなぜ起きるのか。そのメカニズムは、これまで述べた知見から推測することができます。ウロモジュリンは尿細管上皮細胞で産生され、一日産生量もけっして少なくありません。また、尿中濃度は血中濃度の1,000倍と超高濃度です。したがって、尿細管そのものに障害が及ぶと、血中ウロモジュリンが異常な動きを示すことは理にかなっています。具体的には、尿細管上皮細胞とその周囲の三次元構造が破綻することで、尿細管管腔内のウロモジュリンが細胞間隙を通過して尿細管間質へ漏れ出すこと(back leak)が考えられます。さらに、間質に炎症が加わると血管透過性が亢進し、そこから血中にウロモジュリンがより移行する経路が形成されるメカニズムが考えられます。

ただし、こうした仮説に基づくエビデンスはまだ十分に蓄積されておらず、実臨床における使用経験も限定的です。だからこそ、まずはこうした新たな検査指標の存在を、多くの医療従事者の方々に知っていただくことが大切だと考えています(できれば、薬剤治療中の患者さんにも知って貰いたいです)。薬剤副作用への配慮が求められるのはいつの時代も変わりありませんが、ポリファーマシーが時々問題となる現代医療において、大切な担当患者さんを薬害から守るために血中ウロモジュリン測定がお役立ていただける場面も少なくないと考えています。
参考文献:
□ Serum Uromodulin Is a Possible Auxiliary Diagnostic Tool for Acute Tubular Injury and Acute Interstitial Nephritis: A Case Series. Case Rep Nephrol Dial. 2022,12:185.
□ A nationwide questionnaire study evaluated kidney injury associated with Beni-koji tablets in Japan. Kidney Int. 2025,107:530.
●エイジング評価検査としての可能性
ウロモジュリンは、腎臓が若く健康な状態で最も多く産生される腎臓特異的タンパク質です。そのため、血中ウロモジュリン濃度は腎臓が健全であるほど高く保たれますが、腎機能が低下してくると、原因の如何を問わず、その濃度も次第に低下していきます。加齢に伴って腎機能はゆるやかに衰えていくため、多くの方において血中ウロモジュリン濃度も長期的には徐々に減少していくと考えられます。ただし、加齢による濃度低下の具体的な速度に関しては、現時点では十分なエビデンスが揃っておらず、今後の研究が待たれます。
一般に、臓器の加齢や経年変化は年間約0.5%程度ずつ進行するとされており、ウロモジュリン濃度もこの範囲内で減少していく可能性が想定されます。例えば、微小変化型ネフローゼ症候群の症例で腎生検を行うと、40歳未満の患者では糸球体の硬化像がみられることは非常に稀です。しかし、40〜50歳を過ぎると、1個程度の硬化糸球体が観察されることが増えてきます。こうした所見も、腎臓が加齢に伴って構造的に変化していく、すなわち“経年劣化”を受けていることの裏付けと考えられます。
近年、「健康寿命の延伸」への関心が高まる中で、さまざまな分野や企業がアンチエイジング領域へ参入しています。加齢自体を避けることはできないにせよ、年齢に応じた健康を保とうとする「抗加齢(anti-aging)」の概念は、いまや広く受け入れられるようになっています。そして最近では、単に老化を遅らせるだけでなく、「若返り(rejuvenation)」を目指す取り組みも注目されています。
腎機能は、加齢とともに徐々に低下していき、失われた機能の回復は困難とされてきました。そのため、腎機能低下の主な原因である生活習慣病の治療を通じて、腎臓の機能を可能な限り長持ちさせることが主な治療目標となっています。しかし、こうした治療に加え、抗加齢・若返りといったアプローチが腎機能の改善に寄与する可能性があれば、大きな希望となるでしょう。
一方で、現在一般的に使われている腎機能推定マーカー(クレアチニンやシスタチンC)では、こうした微細な変化を捉えるには限界があります。その点、ウロモジュリンは腎臓で特異的に産生され、機能ネフロンの量を反映するため、より鋭敏に変化を捉える可能性があると期待されます。
こうした背景から、抗加齢や若返りの研究・開発に携わる医療従事者や企業の皆様には、血中ウロモジュリン濃度をエイジング評価のマーカーとして積極的にご活用いただきたいと願っています。

また、平均寿命との関連からウロモジュリン濃度を捉えることも興味深い視点です。ご存じのとおり、一般的に女性は男性よりも平均寿命が長い傾向がありますが、実は血中ウロモジュリン濃度も女性の方が明らかに高いのです。この性差の要因は未解明ですが、ウロモジュリンの産生能力、すなわち腎臓としての“余力”を長く維持できることが、健康寿命や全体の寿命延伸に寄与している可能性は十分に考えられると思います。
今後、血中ウロモジュリン濃度の維持や上昇に寄与する薬剤や生活習慣改善、抗加齢及び若返り施策などが開発され、実際に寿命や腎機能の改善が認められるようになれば、ウロモジュリンはエイジング評価の確かな指標として、より広く認知されていくことが期待できると考えています。
■このコラムは順次内容を充実させてまいります。興味がある方は時々訪れてみてください。
■一般的なウロモジュリンの解説ページは、こちら。