ウロモジュリンは、全身の中でも腎臓でのみ作られ、さらに、腎臓の中でも尿細管という部位でのみ作られる臓器特異性が極めて高い蛋白質です。ウロモジュリンは、そのほぼ全量が尿中に排泄されますが、ごくわずかな量だけ血液中に移行します。弊社では、血液中のウロモジュリンを測定しています。腎臓由来の物質で腎機能を評価できる"唯一"の蛋白質がウロモジュリンです。これまで叶わなかった「腎臓の声」を直接聴くことができます。
ウロモジュリン値の特徴として、腎機能が良い人では数値は高く、腎機能が悪い人では数値は低くなります(図1)。数値の低下は、腎機能の低下に伴い、腎臓で作られるウロモジュリンの産生量が減るからです。
クレアチニンとシスタチンCは、腎機能が低下すると数値が上昇する負の相関関係(シーソーの関係)にあるため、腎機能を評価するためには推算糸球体ろ過量(eGFR)を計算する必要があります。一方で、ウロモジュリンは腎機能と正の相関関係を示すため、eGFRの計算を要さずに、直感的に腎機能の推移(数値変動)を把握しやすいのがメリットと言えます。また、クレアチニン値が例えば0.70mg/dLから0.77mg/dLに1割上昇したことは、腎機能が1割も悪化したことを示唆しますが、小数点第二位の変化を深刻には捉えにくく、見逃しの原因になることがあり、これを数回繰り返すことで不可逆的な腎機能低下に至ることもあり得ます。一方で、ウロモジュリンはクレアチニンと単位が違うものの数値が大きいため、300ng/mLから270ng/mLに1割低下したら数値変化に気付きやすいこともウロモジュリンで腎機能の推移を確認していくメリットと言えるでしょう。
ウロモジュリンは下図のように腎機能(eGFR)と正の相関関係がありますが、よく見ると腎機能が良い群ほど血中ウロモジュリン濃度にばらつきが大きいことがわかります。ばらつきが大きいということは、正しく判断すること(この場合、ウロモジュリン値から腎機能を推定すること)に限界があるということを意味します。
(図1)
ばらつきがあることはウロモジュリンを測定する意義が低いということなのでしょうか?決してそういうことではありません。体のつくりは人それぞれですから、臓器にも個体差があって当然です。そういう視点から考えると、ウロモジュリンの活用方法が見えてきます。ウロモジュリンの初回測定値をその人の基礎値・基準値と考え、定期的に反復測定することで、どのぐらいの時間でどの程度の腎機能の貯金を使ったかを把握することが可能となります。つまり、「一定期間内の腎機能消費量を定量化するのがウロモジュリンの活用方法」となります。
経験的には、腎機能が概ね保たれている人のウロモジュリン値は200-400ng/mLと幅広く分布しています。ただし、200ng/mLの人が400ng/mLの人と比べて劣っている医学的な証拠は今のところは得られていません。逆に、400ng/mLの人が200ng/mLの人と比べて優れている証拠もありません。単なる個体差ということです。
下図のように、初回測定値が200ng/mLであっても、変動が少なく、中長期的に低下が目立たなければ、その後も腎機能は保持できることが予想されます。一方で、初回測定値が400ng/mLと高くても、数値低下が目立つようであれば、腎機能の低下が進んでしまうかもしれません(未来を確実に予測できるわけではありません)。
腎機能は加齢とともに必ず低下していきますから、ウロモジュリン値も長期的には必ず低下していきます。腎機能の経年劣化速度は、0.5%程度(eGFRで年間0.5程度)と言われていますのでこれを参考にし、腎機能を使い過ぎた時にはそれまでの生活習慣をしっかりと振り返り、その先の生活習慣のプランを立て直し、より安心な未来に繋げて欲しいと考えています。一般的には年間0.5%の変化はほぼ誤差範囲内(横ばい)ですから、ウロモジュリン値が概ね横ばいで経過していることを定期的に確認されると良いと思います。
健康な時や、未病段階には主治医はいませんから、皆様自身が主体性を持って生活習慣の変化や検査結果の把握を通して自己管理していく必要があります。自己管理のための評価ツールは分かりやすい方が良いですから、ウロモジュリンは最適な検査になりえる可能性があると考えています。
さて、弊社では、ウロモジュリン測定を腎機能を推定する検査としてではなく、「腎機能の推移を評価する検査」としての利用が適していると考えています。そのため、あえて正常、及び、異常の基準値の設定はしていませんし、設定する必要がありません。「それでも知りたい」という声は少なからず聞きますので、以下を参考値としてください。統計解析の結果としては以下のような傾向がありますが、ウロモジュリン値が150ng/mLを下回っていても十分に腎機能が保たれていることもあり得ます。初回測定の場合にはクレアチニンやシスタチンCと同時に測定することが望ましいです。なお、ウロモジュリン値がどこまで下がったら、クレアチニンやシスタチンCが上昇するかは人によって異なります。
・200~400ng/mL:腎機能が概ね保たれている
・<150ng/mL:eGFR<60の慢性腎臓病を示唆
・<30~40ng/mL:eGFR<15の末期腎不全を示唆
当然ながら、臓器が持つ「ゆとり」は若い時の方があります。体が充実している時期(25~40歳)にまず1度、基礎値を確認しておくことをオススメしたいと考えています。その後は、定期的に測定値を追うことで腎機能の余力がどう変化したのか、あなた自身が評価できるようになります。
なお、使用薬剤、特殊病態、生活習慣や体調の変化等に伴う数値変動はほとんど分かっていません。体調が良好で安定している時の検査をおすすめします。
<技術情報>
血中ウロモジュリンは、ELISA法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)で測定しています。このELISAキットは、弊社医師が開発し、日本を代表する抗体試薬メーカーである株式会社免疫生物研究所によって製造しています。同社は、品質マネジメントシステムの世界標準規格であるISO13485の認証を受けており、厳しい品質管理のもとで作製され、十分な精度管理が達成されたキットを弊社で使用しています。
<検査希望の方へ>
血中ウロモジュリン測定は腎ドック内の1検査として測定できますが、これだけ測定したい方も検査を受けていただくことが可能です(条件があります。こちらも参照ください)。ご希望の方は、お問い合わせフォームからご相談ください。
<特許情報>
ウロモジュリン関連特許として、以下3件を保有しております。ウロモジュリン測定の商業利用をご検討されている企業様はご相談ください。
第7130313号
第7566097号
第7577170号