ウロモジュリン
- 臼井亮介
- 2024年4月30日
- 読了時間: 7分
更新日:5月4日
【特徴】
・クレアチニン、シスタチンCに次ぐ、3つ目の腎機能評価検査
・機能ネフロン量(functioning nephron mass)を反映
・定期測定により、腎臓の加齢変化・経年劣化を数値評価
・血液検査による急性間質性腎炎や尿細管障害の診断補助

株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介です(日本腎臓学会専門医・指導医)。このコラムでは、「血中ウロモジュリン測定」について、できるだけ分かりやすくご紹介します。
血中ウロモジュリンは、砂時計やゲームに登場するキャラクターのヒットポイント(体力や生命力)にたとえるとイメージしやすいかもしれません。ゲームの中でキャラクターごとに最大ヒットポイントが異なるように、血中ウロモジュリンの最大濃度も人によって大きく異なります。また、人生には腎臓にとって負担の大きい時期もあるかもしれませんが、どんな理由であれ「腎臓のヒットポイント」を使い切ってしまうと、血液透析が必要となります。定期的に自分の腎臓ヒットポイントを“見える化”することで、腎臓の状態を把握し、上手にコントロールすることができるようになると考えています。

このようなイメージをもっていただいたところで、少し専門的な説明に進みましょう。
●腎臓の状態を“腎臓自身の声”として捉えられる、唯一の血中蛋白です。
ウロモジュリンは、腎臓でしか作られない、きわめて臓器特異性の高い蛋白質です。しかも、腎臓の中でも「尿細管」と呼ばれる限られた部位でのみ産生されます。その大部分は尿中に排泄されますが、ごくわずかに血液中にも移行します。弊社では、この微量の「血中ウロモジュリン」を正確に測定する技術を独自に開発しました。血中ウロモジュリンの濃度は、腎臓の働きをダイレクトに反映しており、従来のような間接的なマーカーでは捉えきれなかった「腎臓の声」を、より直接的に“聴く”ことが可能になります。
血中ウロモジュリンの最大の特徴は、腎機能が良好な人ほど数値が高く、腎機能が低下すると数値が下がるという「正の相関関係」にあることです(図1)。これは、腎機能が落ちるとウロモジュリン自体の産生量が減るためです。
従来より使われている腎機能マーカー、たとえばクレアチニンやシスタチンCはそれ自体は腎臓と直接的な関係がないことと、腎機能が低下するにつれて数値が上がる「負の相関関係」にあるため、評価にはeGFR(推算糸球体ろ過量)の計算が必要です。一方、ウロモジュリンは「数値が下がる=腎機能が悪化している」と直感的に読み取れるため、eGFRを計算しなくても腎機能の推移を把握しやすいという利点があります。
たとえば、クレアチニン値が0.70mg/dLから0.77mg/dLへ1割上昇していたとしても、小数点第二位の変化は見逃されがちです。また、この時、eGFR値は93から84にかなり低下していますが、問題視されないことも少なくないと思われます。その結果、腎機能の悪化に気づくのが遅れ、気づいたときには不可逆的な障害が進行していることもあります。これに対して、ウロモジュリンは数値自体が大きいため、たとえば300ng/mLから270ng/mLへと1割下がった場合、その変化が視覚的にも分かりやすく、腎機能の低下にいち早く気づくことが可能です。
●ウロモジュリンで見る「腎機能の推移」
ウロモジュリンはeGFR(推算糸球体ろ過量)と正の相関を示しますが、特に腎機能が良好な人ほど、血中ウロモジュリン濃度に大きなばらつきが見られます(図2)。これは、同じくらい腎機能が保たれていても、ウロモジュリン値に個体差が大きいことを意味しています。ただし、この“ばらつき”は測定精度の問題ではなく、腎臓の構造や働きに個体差があるという、ごく自然な現象です。
では、このように個人差の大きいウロモジュリン値を、どのように活用すれば良いのでしょうか?
それは、「自分自身の基準値(ベースライン)を知り、時間の経過に伴う変化を見ること」です。初回測定値を基準とし、定期的に反復測定することで、どのくらいのスピードで腎機能の“貯金”を使っているかが把握できます。言い換えれば、ウロモジュリンは「一定期間における腎機能消費量を定量的に評価できる検査」なのです。

●大切なのは“値の高さ”より“変化の傾向”
ウロモジュリン値は、腎機能が保たれている方でも200~400ng/mLと幅広く分布します。しかし、たとえば200ng/mLの人が400ng/mLの人より腎臓の状態が劣っているとは限りませんし、その逆も然りです。これは単なる“個体差”であり、数値の高低が優劣を示すものではありません。
重要なのは「その数値が時間とともにどう変化していくか」です(図3)。たとえば、初回測定が200ng/mLでも、その後の推移が安定していれば、腎機能も安定していると考えられます。一方で、初回が400ng/mLでも、明らかな低下が続くようであれば、腎機能の悪化が進んでいる可能性もあります。もちろん、将来を完全に予測できるわけではありませんが、変化の傾向を見ることには大きな意味があります。
●「減り方」を見ることで振り返りと対策が立てられる
臓器機能は加齢とともに誰でも少しずつ低下します。eGFRは年間0.5程度ずつ下がるとされており、これはウロモジュリン値にも表れます(長期的にはほとんどの方で低下します)。こうした変化は「経年劣化」ともいえる自然なプロセスですが、生活習慣(喫煙、運動、食事など)や生活習慣病(糖尿病、高血圧症、肥満症など)によって、その進行速度が早まることがあります。
自分の腎機能の“減り方”を定期的にチェックし、変化が速いと感じたら生活を見直す。ウロモジュリンは、その気づきのための優れたツールとなります。なお、年間の変化が目立たなければ、腎機能は安定しているとみてよいでしょう。
●自分で腎機能を“見守る”時代へ
健康な時期や、まだ自覚症状のない未病段階では、主治医がいないという方がほとんどでしょう。だからこそ、生活習慣や検査結果を自分自身で把握し、主体的に健康を守ることが大切です。
ウロモジュリンは、そのような“自己管理ツール”として非常に適していると私たちは考えています。多くの方は、検体検査というと「病気発見ツール」という印象を持たれていますが、ウロモジュリンは「健康なときにこそ活用したい検査」です。
慢性腎臓病と診断された後も有用ではありますが、その段階では保険診療で測定可能なクレアチニンでの評価で十分です。ウロモジュリンは、腎機能に余力のある段階での定期的なチェックにこそ意味があります。
●ウロモジュリンに「基準値」を設けない理由
私たちは、ウロモジュリンを「腎機能のスナップショット」ではなく、「その推移を評価する検査」として捉えています。そのため、あえて正常・異常を分ける明確な基準値は設けていません。
ただし、参考値として以下のような統計的傾向があります:
・200~400ng/mL:腎機能が概ね保たれている
・150ng/mL未満:eGFR<60(慢性腎臓病)を示唆
・30~40ng/mL未満:eGFR<15(末期腎不全)を示唆
なお、150ng/mL未満であっても、クレアチニンやシスタチンCなど他の腎機能指標が正常なこともあります。そのため、初回測定時にはこれらの指標を併せて評価することをお勧めします。なお、どの程度ウロモジュリン値が低下すれば、クレアチニンやシスタチンCが上昇するかは、やはり個人差があります。
●若いうちに“基準値”を知っておこう
ウロモジュリンは「腎機能の余力」を映すマーカーともいえます。冒頭でも述べた通り、腎臓の“ヒットポイント”を可視化するようなイメージです。その意味でも、もっとも身体が充実している時期(25〜40歳)に自分の基準値を確認しておくことを強く推奨します。その後、定期的に測定することで、自分自身で腎機能の変化を評価できるようになります。
なお、薬剤の影響、特殊病態、生活習慣の変化などがウロモジュリン値に及ぼす影響については、まだ明らかでない部分も多くあります。特に、体内の水分バランスが乱れると、測定値の変動が大きくなることがあります。そのため、体調が良好で安定している時期に検査を受けることをおすすめします。
<技術情報>
血中ウロモジュリンは、ELISA法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)で測定しています。このELISAキットは、弊社医師が開発し、日本を代表する抗体試薬メーカーである株式会社免疫生物研究所によって製造しています。同社は、品質マネジメントシステムの世界標準規格であるISO13485の認証を受けており、厳しい品質管理のもとで作製され、十分な精度管理が達成されたキットを弊社で使用しています。
<検査希望の方へ>
血中ウロモジュリン測定は腎ドック内の1検査として測定できますが、これだけ測定したい方も検査を受けていただくことが可能です。
・個人の方
血中ウロモジュリン測定が受けられる提携医療機関リストをご確認ください。
・医療機関の方
検査委託については、お問い合わせフォームからご相談ください。
<特許情報>
ウロモジュリン関連特許として、以下3件を保有しております。ウロモジュリン測定の商業利用をご検討されている企業様はご相談ください。
第7130313号
第7566097号
第7577170号