eGFR・推算糸球体ろ過量
- 臼井亮介
- 2024年5月1日
- 読了時間: 4分
更新日:5月19日
こんにちは。株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介です(日本腎臓学会専門医・指導医)。2002年に「慢性腎臓病(CKD)」という病気の概念が創出され、2008年には現在広く使われている「eGFR(推算糸球体ろ過量)」の日本人向け計算式が発表されました。このコラムでは、eGFRとは何か、どのように活用されているのかを、できるだけわかりやすく解説していきます。少し深掘りした内容も含まれますが、腎機能について理解を深めるきっかけになれば幸いです。
●腎機能を評価する推算糸球体ろ過量(eGFR)の役割
腎臓の働きの良し悪しを医学的には「GFR(糸球体ろ過量)」という指標で表します。GFRを正確に測るための方法として「イヌリンクリアランス検査」という検査がありますが、手間や費用がかかるため、日常診療で行われることはほとんどありません。その代わりに使われているのが、血液検査で得られる数値から計算する「eGFR(推算GFR)」です。eGFRは、腎機能を“だいたい”把握するのに非常に有用であり、現在ではCKDの診断や腎機能評価の標準的な方法となっています。
●eGFRの計算方法と“誤差”の背景
eGFRは、血清クレアチニン値と年齢・性別を用いて計算されます。これをクレアチニン換算eGFR(eGFR-cre)と呼びます。一般的に「eGFR」と言えば、このeGFR-creを指します。ただし、クレアチニンの値は筋肉量に影響されるため、体格によって正確性に差が出ます。欧米人のデータを基に作られた計算式では、日本人では腎機能が実際より高く見積もられてしまう傾向がありました。そこで2008年に、日本人の体格に合わせたeGFRの計算式が発表され、現在ではこちらが広く使われています。
とはいえ、日本人の体格もさまざまです。特に「男性170cm/63kg、女性160cm/53kg」といった標準的な体型以外では、eGFRの値に誤差が生じる可能性があります。実際には、eGFRの正確性は「約75%の人が、真の腎機能(GFR)の±30%以内に収まる」程度とされています。便利な指標である一方、あくまで目安であることを理解することが大切です。

●eGFRを見るときに注意したい「体重変化」
eGFRはクレアチニン値から算出されるため、実際の腎機能だけでなく、筋肉量にも左右されます。たとえば、食事制限だけで3~5キロのダイエットをした場合、筋肉量の減少によってクレアチニン値が下がり、eGFRが高く出ることがあります。逆に、レジスタンス運動を始めて筋肉量が増えるとクレアチニン値が上昇し、eGFRは低下する可能性があります。
このように、eGFRの変化を見る際は、体重や筋肉量の変動にも注目する必要があります。腎臓内科の外来で体重測定が欠かせないのは、このような背景があるからです。
●筋肉量の影響を受けにくい「シスタチンC」
eGFRにはもう一つの評価方法があります。それが「シスタチンC換算eGFR(eGFR-cys)」です。シスタチンCは筋肉の影響を受けにくいため、平均的な日本人体型から外れる方や痩せ型高齢者などでは、より正確な腎機能評価が期待できます。保険診療では、eGFR-creの値に疑問がある場合や確認が必要な場合に、補助的にこの検査が用いられます。
ただし、eGFR-cysはeGFR-creよりも高く出る傾向があります。若年層では30〜50もの差が出ることもあります。数値だけで過信せず、主治医と相談しながら総合的に判断することが大切です。
●腎機能をより正確に評価するために
ひとつの数値だけで判断するよりも、複数の視点から腎機能を確認する方が、より正確な評価につながります。腎ドックでは、体格や年齢にかかわらず、可能な限り正確な腎機能評価ができるよう、以下のような工夫を行っています。
クレアチニンとシスタチンCを同時に測定し、eGFR-creとeGFR-cysの両者で評価
希望者には、「24時間クレアチニンクリアランス検査」を無料で提供
全例で新しい腎機能マーカー「ウロモジュリン」を測定
※なお、eGFRの算出には日本人向けの計算式を使用しています。外国籍の方は参考値となります。
まとめ
eGFRは、腎臓の状態を把握するための大切な指標です。ただし、“だいたい”の腎機能を推し量った「目安」としての性質があることを理解し、体格や筋肉量などによる影響も考慮することが重要です。気になる数値が出た時は、ぜひ腎臓専門医にご相談ください。早めの相談が、将来の安心につながる一歩になります。