シスタチンCに関して詳しく書かれているサイトはあまり見かけませんので、少々詳しく説明します。
シスタチンCは、全身の細胞で作られている小さな蛋白質です。クレアチニンと同じく、腎機能が悪くなると測定値が上昇するため、腎機能を評価する検査(腎機能推定マーカー)として使われます。クレアチニンは筋肉量・体格・体液量・食習慣・運動習慣等に影響されて測定値が変動しますが、シスタチンCはこれらの影響を受けず、より安定して腎機能を評価できると言われています。
シスタチンCの最大のメリットは、クレアチニンよりも早期の腎機能低下を検出できる点です。一方で、クレアチニンの問題点は腎機能が半分程度まで低下しないと明らかな数値上昇を認めないことでした(ブラインド領域の存在)。シスタチンCにもブラインド領域があるものの、腎機能が2割程度低下した時点で検査値が上昇し始めるため、クレアチニンが苦手とする7~8割程度の腎機能(健常~概ね未病段階の腎機能)をより正しく評価ができる検査なのです。これを逆手に取ると、腎機能が正常と思われる健康な時(なるべく若いうち)に測定したシスタチンC値と比較して上昇していなければ、腎機能が概ね7~8割以上は残っている可能性が高いということになります。
シスタチンCの測定方法が検査センターによって異なるため、正常基準値は検査センターごとに多少異なります。正常基準値は概ね、男性が0.6~0.9mg/L、女性が0.5~0.8mg/Lです。腎機能を評価するにあたってはシスタチンCの測定値ではなく、シスタチンC換算eGFR値を算出して評価しますので、シスタチンC自体の正常基準値にこだわる医学的な意義はありません。また、男女差はごくわずかのため、弊社腎ドックにおけるシスタチンC正常基準値は男女共通で0.5~0.9mg/Lとしています。
弊社の腎ドックではクレアチニン・シスタチンC・ウロモジュリンの3点測定を行います。その上で、結果の解釈につき、個別レポートを作成し返信しています。
上記以外のシスタチンCの特徴や取り扱い方も記載しておきます。
・原則として、腎機能はクレアチニン換算糸球体ろ過量で評価します。
痩せ型小柄高齢者以外のほとんどの方でクレアチニン換算eGFR値(eGFR-cre)よりもシスタチンC換算eGFR値(eGFR-cys)の方が高くなります。特に若い方ではこれが顕著で、30~50も高くなることが決して稀ではありません。もはや何が正しいのか分からなくなるレベルです。また、高齢者を除き、eGFR-creで診断がついた慢性腎臓病ステージG3a(eGFR45~60)の過半数は、eGFR-cysは60以上になり、慢性腎臓病の診断基準から外れます。腎機能は高い方が良いと誰しも思うはずですから、eGFR-cysがより自分の腎機能を表していると考えたい気持ちは理解できますが、腎機能は原則としてeGFR-creで評価され、シスタチンCはあくまでも補助診断の位置づけであることを理解しておきましょう。
eGFR-creとeGFR-cysの平均値が実際の腎機能に近いという論文報告もあります。これが本当に正しいということになれば、現在の日本人の腎機能は、eGFR-creでは過小評価、eGFR-cysでは過大評価になるのかもしれません(eGFR計算式は日本人のために作られたものを使っているはずなのですが…)。また、現在日本には慢性腎臓病患者数が1,300万人程度いることになっていますが、eGFR-cys値や、eGFR-creとeGFR-cysの平均値で腎機能を評価することが正しいのであれば慢性腎臓病患者総数は激減します。
繰り返しになりますが、腎機能評価は原則としてクレアチニン換算eGFR(eGFR-cre)で行うと理解しておきましょう。
・測定値変動要因があまりわかっていません。
一般的にはクレアチニンよりも安定して測定されると認識されているのですが、多くの症例数で繰り返しシスタチンCを測定すると、クレアチニン同様に1割程度の測定値変動があり、クレアチニン値より明らかに安定しているとも言い切れないことが経験的に理解できます。やはり、1回だけの測定値を信じ切るのは危険かもしれません。腎臓専門医であっても十分なシスタチンCの測定経験を持っている者が少なく、測定値の変動要因に関する知見の集積がまだまだ不十分です。現時点では病態による測定値変動要因として以下のような報告があります。ただし、エビデンスレベルは決して高いものではありません。
高値となる原因として、腎機能低下以外に、「悪性黒色腫や直腸がん、甲状腺機能亢進症、ステロイド内服」
低値となる原因として、「甲状腺機能低下症、HIV感染症、シクロスポリン内服」
・シスタチンCはマーケティングに失敗した検査
(*ここは読み物としてお読みください)
シスタチンCはクレアチニンでは十分に叶わない腎機能低下の早期発見・早期介入を可能とする特徴を持つため、とても期待されて登場した検査でした。しかし、現在このような利用はほとんどされていません。
シスタチンCの保険上の測定用途は、「尿素窒素又はクレアチニンにより腎機能低下が疑われた場合に、3か月に1回に限り算定できる。」となっています。分かりやすく言い換えると、「クレアチニンで異常値が検出された時(腎機能低下が疑われた時)、本当に腎機能が低下しているかどうかを判断するために補助診断としてシスタチンCを測定しても良いですよ」ということになります。しかし、クレアチニンで腎機能低下が疑われて医師に相談しても、シスタチンCが検査されることはかなり稀で、「十分に水分摂取してから再検査しましょう」「(運動習慣がある人では)一週間ぐらい運動をやめて体を休めてから再検査しましょう」と提案されることが多いと思います。
クレアチニン値が正常上限値を超えた時は腎機能が約半減したことを示唆します。つまり、保険診療においては、「腎機能が半減したことが疑われるまでは、原則的にはシスタチンCを測定することが許されない」という見方もできます。また、地域によってはシスタチンCを測定する際に、「シスタチンCを測定した理由」を提出しないと保険請求を拒否されることが比較的頻繁に起きており、これもシスタチンCが普及しない一因となっています。
さて、日本は国民皆保険なので、保険を使った診療が行われています。保険証は病気が疑われた時に初めて利用できる割引チケットですが、健康な状態(未病状態)を証明するための利用は原則的には許されません。このため、シスタチンCが保険収載されるにあたり、本来の使用用途である、腎機能が健全な状態にあること~腎機能が未病段階にあることを調べるための検査としては認可されなかったのです。
シスタチンCは2004年に保険収載されて約20年も経過しているにも関わらずほとんど普及していません。一般的に、新しい検査や治療は専門医を中心に使用経験を蓄積し、そのメリットを非専門医にも普及させていきますが、すでに腎臓病の診断がついている患者を診療する腎臓内科医は保険診療においてシスタチンCを測定する理由があまりありません。これも普及しない理由になっていると思われます。
繰り返しになりますが、健常~未病段階の腎機能を評価する検査としてシスタチンCはとても有用です。保険診療と自由診療の混合診療は原則として認められていませんが、保険診療で測定せずとも、自由診療で測定すれば問題はありません。つまり、病気の確認ではなく健康の確認のための検査と考えれば、自由診療である、健康診断や人間ドックのオプション検査として行われることが望ましい検査と言えるでしょう。ですが、健康診断や人間ドックでも全く普及していません。登場して20年間も注目されないと、今さら感が漂っているのだと思います。
弊社の腎ドックではクレアチニン・シスタチンC・ウロモジュリンの3点測定を基本とし、リピーターの方には時系列データの提供と解説が付記されます。健康な時から定期的に腎臓を評価する習慣をお勧めしています。
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