気付きにくい慢性腎臓病 - 腎ドック550例の分析から -
- 臼井亮介
- 4月30日
- 読了時間: 4分
更新日:22 分前
こんにちは。株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介(日本腎臓学会専門医・指導医)です。
2002年に「慢性腎臓病(CKD)」という疾患概念が提唱され、eGFR値を用いた腎機能評価が広まりました。それに伴い、多くの臨床研究やエビデンスが蓄積され、現在ではほとんどの医師がCKDの重要性を理解しています。しかし一方で、一般の方々への啓発は十分に浸透しているとは言えません。
腎ドック検査の受託が進み、一定のデータが蓄積されてきましたので、今回は直近550例の解析から見えてきた「慢性腎臓病の認知状況」について共有したいと思います。
(参考リンク)
・[慢性腎臓病(CKD)について知りたい方はこちら]
・[eGFRについて詳しく知りたい方はこちら]
●慢性腎臓病の診断基準該当者は3.5人に1人
腎ドックを受けた550名のうち、eGFR60未満というCKDの診断基準に該当した方は153名でした(27.8%)。実に、3.5人に1人という頻度でした。2024年に日本腎臓学会が公表したデータによれば、CKDの国内推定患者数は約2,000万人(成人の5人に1人)とされています。腎臓に心配や不安を抱えた方がより腎ドックを選択された可能性を考慮すれば、腎ドックでの該当率(27.8%、3.5人に1人)は、国内推定患者数を裏づける結果とも言えるでしょう。
腎ドックで慢性腎臓病の診断基準該当者が多い理由として、以下のような背景が影響している可能性があります:
・過去に健康診断でC・D判定を受け、腎機能を気にしていた方が積極的に受診している可能性。
・健康診断や人間ドック時の空腹・脱水状態により、クレアチニン値が一時的に高くなり、eGFRがやや低めに出ている可能性。
●慢性腎臓病の認知率はわずか6.5%
さらに、問診票の結果から、eGFR60未満の153名のうち「腎臓病で通院中」または「腎臓病の既往あり」と回答した方はわずか10名(6.5%)にとどまりました。これは、腎臓専門外来を行ってきた私の臨床経験とも一致します。腎臓専門外来の初診時eGFRは30~40程度が多いですが、ここまで腎機能が低下していても、ご自身が腎臓病と認識されていないケースがかなり多く目立ちます。C判定(eGFR45~60に相当)での認知率がさらに低いのは十分に考えられることです。
この結果には、以下の要因が関係している可能性があります:
・明確な診断を医師から伝えられていない。
・高血圧症や糖尿病の治療を「腎臓病の治療」と認識していない。
・無治療で経過観察中で、これを病気と認識していない。
今後も問診項目の改善を通じて、「気づき」を一人でも多くの方に届けていきたいと考えています。
●「若いからまだ大丈夫」は危険
今回調査した腎ドック受診者550例の平均年齢は57.8歳(女性57.2歳、男性57.9歳)でした。なお、年齢中央値は女性59歳、男性57.5歳でした。CKDの有病率は加齢とともに高まりますが、今回のデータは必ずしも高齢者ばかりが腎ドックを受けたわけではないことを意味します。CKDの恐さは、初期段階では症状がなく、気づかないまま進行してしまうことにあります。また、腎機能は年齢とともに自然に低下していくため、20代や30代のうちに、“ご自身の腎機能のベースライン”を知っておくことが将来の備えにつながります。
特に以下の検査項目は、若いうちに一度はチェックしておくことをおすすめします:
・シスタチンC:若年層で最も低値を示す傾向があり、腎機能低下の早期発見に有効。
・ウロモジュリン:若年層で最も高値を示す傾向があり、腎臓の健康状態を評価する上で貴重な指標。
最後に
ぜひ、お手元の健康診断結果を見直してみてください。C判定のまま、何となくそのままになっていませんか?少しでも気になる点があれば、かかりつけ医や内科医へご相談いただくことをおすすめします。株式会社レノプロテクトでは「専門医による相談サービス」も行っていますので、近くに相談できる医師がいない時やどこの病院に受診して良いか分からない時は相談窓口としてお気軽にご利用ください。
「まだ大丈夫」と思わず、「今だからこそ気づけた」と考えて、まずは正しい現状把握のための行動に移していただければ幸いです。