慢性腎臓病(CKD)を知ってますか
- 臼井亮介
- 2024年7月1日
- 読了時間: 4分
更新日:6月5日
こんにちは。株式会社レノプロテクト代表の臼井です(日本腎臓学会専門医・指導医)。
「慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)」という疾患概念が生まれたのは2002年のことです。腎臓病には多くの種類があり、症状や臨床経過、治療法はさまざまですが、腎不全患者数を抑制するには、個別の病気を診る「各論」だけでなく、腎臓病を大きな枠組みで捉える「総論的」な視点が必要とされるようになったのです。
実際に、透析の原因となる腎臓の病気は、糖尿病性腎臓病、腎硬化症、慢性糸球体腎炎の3つで全体の7割近くを占めており、これらに共通する対策の重要性が指摘されています。
ここでは、CKDとは何か、なぜ重要なのかをわかりやすくご説明します。

●診断基準
CKDは、様々な腎疾患をまとめた「包括的な臨床診断名」です。診断には以下のいずれか、もしくは両者が、3か月以上続いていることが条件となります:
GFR(*1)が60(mL/min/1.73㎡)未満に低下していること
尿検査で蛋白陽性、画像検査、病理検査等により腎障害の存在が明らかであること
(*1; GFRとは腎臓の働きを表す指標で、通常は血清クレアチニンから計算されるeGFRを用います。)
正常なeGFRは90〜120程度ですので、eGFR100を「腎機能100%」と考えるとイメージしやすいでしょう。腎機能が60%を切る、つまり40%以上低下するとCKDの診断がつきます。また、たとえeGFRが正常範囲内であっても、尿検査や画像検査で腎臓に異常が見つかればCKDと診断されます。
●ヒートマップ
診断基準の中で、eGFR値と尿蛋白・アルブミン尿の程度から、現在地を知ることができ、これに合わせた対応が望まれます。ヒートマップは緑⇒黄⇒橙⇒ピンクの順に重症度が上がります。健康診断では尿検査の定量判定はしませんので、健康診断でA2及びA3ステージと判定されることはありませんが、尿蛋白陽性の場合は腎機能がG1及びG2で正常範囲内であっても緑ではなく、黄もしくは橙のエリアに入っていますので、内科を受診し、再検査と定量判定をして貰いましょう。

●CKDの疫学と臨床像
CKDの診断基準にあてはまる日本国民は2005年時の推定では1,330万人(成人の8人に1人)、2015年時の推定で1,480万人(成人の7人に1人)、2024年時の推定で約2,000万人(成人の5人に1人)、まさに国民病と言える患者数であり、決して他人事ではありません。

腎臓は、体の水分や塩分、老廃物のバランスを調整する重要な臓器ですが、問題なのは「自覚症状がほとんどない」ことです。腎機能が大きく低下するまで、むくみや貧血、だるさ、息切れといった症状は現れません。こうした症状が出たときには、すでに腎機能が30%未満になっていることが多いのです。そして、腎臓の機能は一度悪くなると元には戻りません。放置してしまうと、やがて透析療法や腎移植が必要になる可能性がでてきます。
●腎臓だけにとどまらない問題
CKDが社会的な問題とされるのは、腎臓だけの問題にとどまらず、心疾患・脳卒中・認知症・骨折・感染症など、様々な病気のリスクが2~3倍以上に高まった状態にある点です。
下図は腎不全の原因として最も多い糖尿病患者さんのデータです。透析の原因の第一位が糖尿病ですが、糖尿病性腎臓病で腎臓の状態が悪くなり、次の病期に進行する確率は年2~3%と意外と高くありません。しかし、腎臓が悪くなると、腎臓病の進行よりも先に死亡率の増加という深刻な問題が現れてきます。
「透析にはなりたくない」と話される患者さんが多いですが、実際には、透析に至る前に、上記の疾患で命を落とす方が圧倒的に多いのです。eGFR45~60のステージG3a(健康診断のC判定に該当)という、慢性腎臓病としては軽症と言われる時点であっても、それらのリスクが上がっていますので、腎臓はまだ大丈夫、ではなく、すでに腎臓以外の全身の病気が進んでいるかもしれないと考えて全身管理をしていく必要があるのです。
●腎臓専門医からのメッセージ
近年、慢性腎臓病(CKD)の認知向上を目的として、雑誌特集やテレビCM、ポスター広告などの啓発活動が盛んに行われるようになってきました。こうした取り組みは「CKDの早期発見・早期介入」を目指すものですが、私たちが本当に目指すべきは、「そもそもCKDにならないこと」ではないでしょうか。
腎機能は加齢とともに少しずつ低下し、一度失われた機能は基本的に回復しません。そのため、一度でもCKDと診断されると、その日から「一生涯、CKD患者」として過ごすことになります。それにもかかわらず、現在の健康診断や人間ドックでは、腎機能の「経時的な変化」に目を向けたアラート機能がほとんど働かないのが現状です。つまり、毎年健康診断を受けていても、多くの方が不可逆的な腎臓病に進行して初めてその事実に気づくのです。
生活習慣及び、生活習慣病と深く関わるCKDの進行を、加齢変化の範囲にとどめるためには、健康なうち――つまり未病の段階から定期的に腎機能をしっかりと把握し、必要に応じて適切な対策を講じることが重要です。
だからこそ、私は声を大にしてお伝えしたいのです。
「健康なうちから腎臓を守ることの大切さ」を。
あなた自身、そしてご家族が、将来CKDで悩むことのないように。腎臓の健康は、人生の質を大きく左右する、大切な土台なのです。