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健康診断の「C判定」 - その意味と向き合い方 -

  • 臼井亮介
  • 5月7日
  • 読了時間: 6分

更新日:3 日前


 こんにちは。株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介です(日本腎臓学会専門医・指導医)。

 春の健康診断の結果が届き、「C判定」と書かれていて驚いたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。C判定が出たからといって、すぐに治療が必要な状態とは限りません。大切なのは、その結果を正しく理解し、適切に対処することです。今回は、健康診断の腎機能「C判定」について、専門医の視点からわかりやすく解説します。





●C判定は「様子見でいい」わけではない

 C判定は、日本人間ドック・予防医療学会の判定区分のひとつで、「生活習慣の改善」や「再検査」が推奨される判定区分です。腎機能の場合、eGFR(推算糸球体ろ過量)が45~59の範囲に入るとC判定となります。実は、この数値はすでに慢性腎臓病(CKD)の診断基準にあたります(ステージG3aに該当)。つまり、腎機能のC判定は「腎臓病にならないように生活を見直しましょう」という軽い注意喚起ではなく、「腎臓病が疑われるので、一度きちんと腎臓の状態を確認しましょう」という意味です。特に、初めてC判定がついた方は必ず再検査は受けるようにしてください。

腎機能C判定に注意
C判定は注意してください

●生活習慣病のC判定と同じと考えていいの?

 健康診断では血糖(糖尿病)、コレステロール(脂質異常症)、血圧(高血圧症)や体重(肥満症)などでもC判定が出ることがあります。これらは生活習慣の見直しで改善が期待できるケースも多く、急を要しないことがほとんどです。


 では、腎機能のC判定も同じように捉えてよいのでしょうか?


 慢性腎臓病も「生活習慣病のひとつ」とされていますが、腎機能は一度低下すると、基本的には元に戻りません。加えて、加齢により自然と少しずつ下がっていく臓器でもあります。上記のとおり、C判定となる腎機能はeGFR45~59ですから、「すでに腎機能が約半分しかないことが疑われている」ということを理解しておきましょう。


 また、意外と知られていないのが、定期健康診断ではeGFRなどの腎機能項目が必須ではないという点です。たとえば、中小企業に転職した場合、健診項目から腎機能が外れてしまうこともあります。だからこそ、健診で腎機能を測る機会があったときは、その結果をしっかり見ておくことがとても大切です。腎機能でC判定がついたときは、本当にその検査結果が正しいのかどうか再検査も含めて医師に相談しましょう。



●慢性腎臓病は「気づきにくい病気」

 腎機能のC判定に関して、もう一つ見逃せないのが「病名が伝わりにくい」ということです。eGFRが60未満の状態が3か月以上続くと、慢性腎臓病(CKD)と診断されますが、この診断名が本人に伝わらないまま経過しているケースも少なくありません。実際、私の外来でも、eGFRが30前後にまで低下してから初めて受診され、「腎臓が悪いとは聞いていなかった」と話す方もけっして少なくありません。当社で行っている腎ドックでも、CKDに該当した方のうち、自身が腎臓病と認識していたのは1割未満でした。これは、腎臓病が「自覚しづらい病気」であることの表れです。




●専門医の視点ではこう見る

 C判定で内科を受診すると、「このぐらいなら大丈夫ですよ」とか、「この先5年、10年で透析になることはありませんから、生活に気をつけていきましょう」と言われてそのまま経過観察となることもあります。このアドバイス自体は正しいのですが、腎臓専門医の目線ではポイントが違います。


 まず対象者の年齢から未来予測していきます。70歳以降でC判定であれば自然経過で透析に至る確率はさほど高くありませんから過度に心配する必要はありません。一方で、60歳未満でC判定がついた場合にはかなり慎重な対応が必要です。30歳ぐらいまでは加齢に伴う腎機能低下が始まっていないと考えた時、その後30年未満で半分の腎機能を使ってしまったことになります。原因究明と対策が講じられているのであれば大丈夫かもしれません。しかし、原因不明で対策も取られていない場合、残りの人生30年間で残り半分の腎機能を維持していくのはけっして楽観的にはなれないのは理解できるのではないでしょうか。


 続いて大切なのが、「尿たんぱく」や「アルブミン尿」の有無です。これらがあると、腎機能の悪化スピードが大きく加速することが知られていますから、定量測定の検査を行うことと生活習慣や薬の見直しは必須となります。また、eGFRが45〜59という軽度の腎機能低下の段階でも、数々の臨床研究により心筋梗塞・脳卒中・骨粗しょう症・認知症といった全身の病気の発症リスクがすでに2〜3倍に高まっていることが明らかになっています。可能な限り、動脈硬化や骨密度の検査で血管や骨の評価をしておくことが望まれます。


 つまり、腎機能C判定が本当にC判定相応であった場合、様子見して良いものではなく、「腎臓の問題」と「腎臓以外の問題」について積極的に考えていく必要があるということになります。C判定がついたときは、まずはクレアチニンと尿検査の再検査を行い、必要に応じてシスタチンCやウロモジュリンといった別の指標を見てみることも参考になります


●健康診断の“落とし穴”にも注意

 健康診断はあくまでも「ふるい分け」です。とくに腎機能については、A判定でない限り「少し注意が必要かもしれない」と考えるのが適切です。もうひとつ見落としがちなのが、「経年変化」です。たとえば、eGFRが75→70→65→60→55と比較的早いペースで下がっていても、60を下回るまでは「異常」と判定されません。このため、毎年健康診断を受けていても、「いつの間にか腎機能がかなり下がっていた。」そして、「腎機能は回復しないことを知り愕然とした」ということが起こり得ます。


 慢性腎臓病を早期発見することも重要ですが、本当は、CKDになる前の段階で変化に気づき、予防につなげることが理想的です。健康診断では経年変化のアラート機能が働かないという事実も知っておいてください。



●まとめ

 腎機能のC判定は、今すぐ治療が必要なケースはけっして多くありません。でも、「今だからこそ、できることがある」――そんな前向きなきっかけにもなります。「放っておいていいのかな」と不安に思ったときは、ひとりで抱え込まずに、腎臓に詳しい医師に相談してみてください。

 株式会社レノプロテクトでは、腎臓専門医が丁寧にお話を伺う「専門医による相談サービス」を行っています。健康診断でC判定がつく方の多くは担当医はいないと思います。「これって相談してもいいのかな?」と思うようなことでも、どうぞ気軽にお声がけください。ほんの小さな気づきが、将来の大きな安心につながるかもしれません。「専門医による相談サービス」は私、臼井(日本腎臓学会専門医・指導医、株式会社レノプロテクト代表)が対応しております。

 経年変化の判断に自信がない方は、医師に相談することをお勧めします。株式会社レノプロテクトの「腎ドック」では、リピーターの方には経年変化のデータ解釈についても専門医コメントを付記しますので参考になると思います。


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