尿素窒素を一言で説明すると、血液中に含まれる蛋白質のカスです。
少し詳しくお話していきます。
私たちヒトは、遺伝子という設計図を元にして蛋白質を作りだし、その蛋白質の相互作用で生命活動を営んでいます。古くなった蛋白質はアミノ酸へと分解されて、再びそれを原料として蛋白質を作って体を維持しています。蛋白質の代謝分解の過程で余分になったアミノ酸に含まれている窒素を体の外に捨てる仕組みが体に備わっています。アミノ酸の分解過程で、肝臓でアンモニアが作られます。アンモニアは毒性が強く(神経毒性など)、体内に停滞させると調子が悪くなるため、身体に無害な尿素に作り直され、尿中に排泄しています。血液中の尿素に含まれている窒素を測定したのが尿素窒素です。
腎機能が低下すると、ろ過しきれなかった尿素が血液中に残るようになります。つまり、この数値が高いと、腎機能の低下が疑われることになるというわけです。しかし、尿素窒素だけで腎機能を評価することは通常しません。理由は2つです。1つ目は尿素窒素にも大きなブラインド領域があること、2つ目は腎機能以外の要素によって大きく数値変動を来すため単独では腎機能を評価するのには適していないためです。
クレアチニンとシスタチンCにはそれぞれ腎機能低下を検出できないブラインド領域が存在します。シスタチンCは正常から腎機能が2割以上低下するまで、クレアチニンは正常から腎機能が約半分低下するまでの検出力が弱いことが問題でした。尿素窒素のブラインド領域は、腎機能がなんと7割程度低下しないと数値上昇しません。
さらに、尿素窒素は腎臓の状態以外にも様々な要因に影響を受けて数値変動してしまいます。高蛋白食の食習慣、消化管からの出血、脱水状態、甲状腺機能亢進症、激しい運動後などでは測定値が高くなります。ステロイド薬や利尿剤を使っている患者さんでも高くなります。一方で、低蛋白食の食習慣、妊娠中、肝不全などでは低くなります。その他、女性では男性よりも10~20%低く、小児では成人と比べて低く、逆に60歳以上では高くなる傾向があります。
つまり、これらの点から尿素窒素で腎機能低下のスクリーニングを行う意義は乏しいのです。
腎ドックで尿素窒素を測定する理由は、体内水分量を評価することができる尿素窒素排泄率(FeUN値)を計算するために測定しています。腎ドックは、健康診断や人間ドックのオプション検査として行うことが多く、これらの機会は飲まず食わずで検査が行われるために血液濃縮の影響でクレアチニン値が高く(腎機能が悪く)測定されることがままあります。FeUN値を一緒に測定しておくと、クレアチニン値の評価精度を高めることが可能となります。
<関連リンク>
Commentaires