処方薬・サプリメントと腎臓:薬剤性腎障害の中でも急性間質性腎炎について【専門医が解説】
- 臼井亮介

- 6月26日
- 読了時間: 10分
更新日:7月3日
こんにちは。株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介(日本腎臓学会専門医・指導医)です。
日本国民の約半数は何らかの疾患を持ち、治療薬を使用しているとされています。また、サプリメント(サプリ)の利用者数は4,000万人以上と言われています。サプリは薬ではなく食品のため、処方薬と同列で論じることは正しくありませんが、今回はこれらによる薬害、すなわち「薬剤性腎障害」について解説します。
薬剤性腎障害と言っても、実際にはかなり幅広い概念のため、ここでは「急性間質性腎炎(きゅうせいかんしつせいじんえん)」と呼ばれるタイプの薬剤性腎障害にスポットを当てて解説します。それでは宜しくお願いします。
サプリメントを巡る「医師と患者」の温度差と歴史的視点
サプリメントについて主治医に相談した際、「意味がない」「エビデンスがない」「危険すらある」と、まったく受け入れる余地がないほどこてんぱんに否定された経験を持つ方は多いのではないでしょうか。
事実、サプリに対して極めて否定的なスタンスをとる医師は少なくありません。しかし、サプリを薬と勘違いしている人も多いですが、サプリはあくまで「食品」であり、処方薬と同列で議論すること自体がそもそも間違っています。
確かに、サプリは処方薬ほど厳格に管理された治験や臨床研究が行われることはありません。しかも、飽食の時代にあってビタミンやミネラルの完全欠乏が極めて起きにくい現代において、サプリによる死亡率の低下や疾患の治療効果など、医学界や世の中を動かすほどの強固なデータ(臨床エビデンス)が出てくることはまずありません。
しかし、歴史を振り返れば人類はビタミンや栄養素の大切さを血の滲むような経験から学んできました。 大航海時代の船乗りを悩ませたビタミンC欠乏による「壊血病」、江戸時代の精米技術の発展によってビタミンB1が豊富な米ぬかが削ぎ落とされた結果大流行した「脚気(かっけ)」、18世紀以降にトウモロコシが欧州の貧困層の主食となったことで流行したナイアシン(ビタミンB3)欠乏による「ペラグラ」、19世紀の産業革命期の工業都市で大気汚染と劣悪な栄養状態から乳幼児に大流行したビタミンD不足を原因とする「くる病」――(あの時代にビタミンサプリがあったなら…と思ってしまいますね)。
また、ペットを飼っている方の中には、長期に渡り単一のペットフードだけを与えている方もいるかもしれません。当然ながら、ペットにも必要な栄養素(炭水化物・蛋白・脂質・ビタミン・ミネラル等)があり、過不足は個体の健康状態、ひいては寿命に大きく影響します。獣医学研究の進歩によって、ほぼ完全食と言えるペットフードが樹立できていることは大変興味深く、凄いことです(治療薬よりも凄いことだと思いませんか?)。
私たちの体は間違いなく日々の「食習慣」によって作られています。そして、ある栄養素が過剰になることで生活習慣病を発症し、不足することで体の機能が潤滑に働かなくなることは、私たち医師全員がこうした史実とともに「生化学」という学問で学んでいます。現代社会で臨床エビデンスが乏しいからといって、基礎医学のエビデンスが極めて豊富なサプリ(栄養素やビタミン)を否定するのも、また極端な話なのです。食事も薬も上手に付き合うことで健康が維持できることに異論はないと思います。
「安全な薬」は存在しない:薬剤性腎障害の基本
一方で、「副作用報告のない薬は存在しない」という事実は医師の常識です(すべての国民の常識としてほしいことでもあります)。特にここで解説する薬剤性腎障害、その中でも「間質性腎炎」に関しては、「最新の薬なら生じ得ない」とか「優れた医師なら避けられる」というものではまったくありません。
薬剤性腎障害は、原因や障害される部位によってざっくりと以下のように大別されます。
中毒性(直接毒性型): 薬剤そのものや代謝物が、腎臓の細胞(主に尿細管)を直接攻撃して破壊するタイプ。投与量や期間に比例してリスクが高まります。
アレルギー性(免疫介在型): 薬剤に対して免疫システムが過剰に反応し、腎臓に炎症を引き起こすタイプ。今回メインで解説する「急性間質性腎炎」がこれに該当します。
虚血性(血流低下型): 腎臓へ流れ込む血液の量を減らしてしまうことで、腎機能が低下するタイプ。
ここで、記憶に新しい事例を振り返ってみましょう。2024年に小林製薬の紅麹サプリメントによる急性腎障害が大きな社会問題となりました。原因は「プベルル酸」という青カビ由来の物質が製造工程で混入したことでした。その後の日本腎臓学会の調査により、この事案で発症した急性腎障害の約半数が「急性間質性腎炎」を呈していたことが報告されています。
あの問題が発覚した際、メディアやSNSでは「だからサプリは危険だ」という論調を展開する医師が少なくありませんでした。しかし、間質性腎炎を発症するかどうかは「相性」や「運」でしかありません。それこそ、処方薬の方が間質性腎炎を起こす頻度が圧倒的に高いことは、すべての医師が認識しなくてはならないことなのです。さらに言えば、原因は紅麹自体にあったわけではなく、混入した異物が間質性腎炎を引き起こした事案でした。
見逃されやすい「急性間質性腎炎」の正体と診断の壁
急性間質性腎炎は、薬剤に対するアレルギー機序によって発症します。薬の量が多いから起こるわけではなく、その人の体質と薬の相性によって、たとえ少量であっても発症するのが特徴です。この病気の非常に厄介な点は、その進行パターンと診断の難しさにあります。
① 進行パターンの多様性と「見逃し」の実態
数日から数週間で比較的急速に悪化するパターンもあれば、数ヶ月以上かけて「くすぶるように」じわじわと悪化していくパターンもあります。特に後者では、自覚症状がほとんどないため、専門医であっても「強く疑わない限り見逃して」しまいます。
この診断の難しさは、先述した紅麹サプリの事例を振り返ってみると明らかです。当時は最初の数例が報告されたことで、まったく自覚症状のない利用者が心配になって医療機関を受診しました(約3,400人が受診し約2,200人が腎臓の異常を指摘、うち約600人が入院加療を要しました)。被害に遭われた方の中には、普段から医療機関に定期通院していた方も少なくなかったはずですが、この問題が公になるまで、担当医は誰一人としてその異変に気付けなかったのです。それほど、間質性腎炎型の薬剤性腎障害は気付きにくく、見逃されやすいと言えます。
② 検査・診断における現実的な壁
急性間質性腎炎を強く疑った場合、診断の手がかりとなる主な検査について紹介します。
尿細管障害マーカー: 尿中の特殊なタンパク質を調べる検査ですが、そもそも医師がこの病態を疑わなければ検査自体を提出することはありません。また、診断感度がけっして高くないため、検査をしても参考にならないこともあります。
ガリウムシンチグラフィー(核医学検査): 急性間質性腎炎ではガリウムが腎臓に強く集積するため診断の一助となります。しかし、特殊装置が必要で行えない病院も多く、検査費用が高額なため特に入院患者さんでは経営方針から行わない病院もあります。
腎生検(確定診断): 腎臓の組織を針で採取して顕微鏡で見る唯一の確定診断法です。しかし、入院を要する特殊検査(侵襲性が低くない検査)であり、実施できる医療機関は限られています。また、この検査の多くは「糸球体腎炎」を疑ったときに行われ、間質性腎炎を疑って行われることは極めてまれです。
早期発見への新たな光と「検査の落とし穴」
こうした診断の難しさを打破するため、私たちは研究を続け、尿中タンパク質である「ウロモジュリン」に着目した論文を報告しました。
通常、ウロモジュリン値は腎機能(eGFR)と正の相関関係にあり、腎機能が低下するとウロモジュリン値も低下します。しかし、急性間質性腎炎や高度な尿細管障害を発症すると、このウロモジュリン値が「激しく上昇する」という特異な挙動を示すことを突き止めました(Case Rep Nephrol Dial. 2022;12:185)。
ウロモジュリンを定期測定することで、これまで見逃されがちだった急性間質性腎炎に、より早期に気付けるようになるかもしれません。また、原因がはっきりしない急性腎障害を見たときに測定することで、原因究明の一助となる可能性も考えられます。
薬剤性腎障害において、薬害が生じたことを早期に検出することは極めて重要です。なぜなら、対応が遅れるほど腎臓の組織が荒廃し、元に戻らない後遺症を残してしまうからです。
「腎障害は、血液検査ですぐにわかるのでは?」と思われるかもしれません。しかし、ここには重大な落とし穴があります。私が他のコラムでも繰り返し書いているように、「クレアチニン」には、腎機能が半分近くまで低下しないと異常を検出できない「ブラインド領域」と呼ばれる検査限界があります。
また、間質性腎炎で障害を受けるのは「尿細管間質(にょうさいかんかんしつ)」と呼ばれる部分です。クレアチニンの数値に異常が出る(=糸球体のろ過機能が落ちる)レベルに達するには、この炎症がかなり広範囲に波及しなければならず、初期の間質性腎炎をクレアチニンだけで評価することは極めて難しいのです。
間質性腎炎は治療が必要なことも
薬害のほとんどは、原因薬剤(被疑薬)を中止すれば回復に向かいます。広義の薬剤性腎障害の多くも、同様に被疑薬を中止すれば自然治癒力で回復に向かいます。もちろん多少の後遺症を残すことは避けられませんが、患者さんからすればそれは運でしかありません。
ただし、間質性腎炎で見られる炎症は被疑薬を中止するだけでは不十分で、ステロイドという強い治療を行わないと鎮火できないことがあります。しかし、間質性腎炎はそもそも診断が難しいことから、確定診断に至る前の疑いの段階ではステロイド治療を躊躇することが多いのです。
では、確定診断のための検査が速やかに行われるか?というと行われないことは先ほどお伝えした通りです。そうなると、間質性腎炎を起こした場合の臨床経過が楽観視できないことはお分かりいただけると思います。
現代医療で原因薬剤を特定することの難しさ(ジレンマ)
さらに、現代の保険診療が抱える大きなジレンマもあります。
現代医療では、一人の患者さんが複数の診療科から複数の薬を処方される「ポリファーマシー(多剤併用)」が常態化しています。特に高齢者では、明確な継続理由を見失ったまま、5年、10年と漫然と飲み続けられているケースがよくあります。
多剤併用治療中の方にいざ腎障害が発生すると、どの薬が原因(被疑薬)なのかを特定することは容易ではありません。しかも、先述の通り「くすぶり型」の間質性腎炎は、長期にわたり薬剤の変更が一切なくても、突如として表出することがあります。
その上、「簡単に中止できない必須の薬」ばかりである場合、すべての投薬を中止することは不可能です。被疑薬を絞り込み、手探りで調整している間にも腎障害が進行し、後遺症を残して慢性腎臓病へと移行してしまうケースがあります。
【驚くべき統計データ】 慢性腎臓病(CKD)患者さんのうち、約2~3割がその臨床経過中に薬剤性腎障害を経験していると言われています。1回ごとのエピソードが腎臓にとって小さな傷であっても、繰り返されることで、腎臓の予備力は段階的に、確実に削られていくのです。
まとめ
サプリであれ、医師に出された処方薬であれ、時にはアレルギーや毒性によって腎臓を傷つけるリスクを持っています。「副作用報告のない薬が存在しない」ことは常識であり、薬剤性腎障害の発症は「ほぼ運」です。だからこそ、薬害回避の大原則は「不要な薬は使わないこと」に尽きます。
サプリは適量を守れば基本的には安全ですが、偏った食生活を続けると健康を害することからも分かるように、テキトウに使わないことは改めて見直しておきましょう。一方、近年のサプリブームで製造工程に問題がある安価な健康食品(サプリ、プロテインパウダーなど含む)が不十分な管理体制のまま流通していることは食品業界の問題となっていますので、念のため覚えておいてください。
継続的に特定成分を摂取・内服している方は、定期的に適切な検査を受けることを強くお勧めします。そして、通院治療中の方においては、ご自身が飲んでいるサプリや市販薬も含め、すべての「内服状況」を担当医に正確に伝えること。これこそが、大切な腎臓を予期せぬ薬害から守るために、今日からできる最も大切なアクションです。
