top of page
臼井亮介

Gd-IgA1

更新日:5 日前


 Gd-IgA1(ガラクトース欠損型異常糖鎖免疫グロブリンA1)


 Gd-IgA1はIgA腎症研究で注目されているバイオマーカー(診断検査)です。


 近年、IgA腎症の原因が、Gd-IgA1とこれに対する自己抗体であることが明らかになりました。そして、IgA腎症の患者さんの血中にはGd-IgA1が多く存在し(下図参照)、さらに、このGd-IgA1に対する自己抗体も多く存在していることが複数の研究者から報告されています。IgA腎症の原因が明らかになったことでこれをターゲットとした創薬が急速に進み、現在10剤を超える新規治療薬が治験段階に上がってきています。この治験では診断検査ではなく(すでに腎生検で診断が確定したIgA腎症患者さんが治験に参加するため)、治療評価マーカー等の用途でGd-IgA1が使用されています。


 このように、IgA腎症が疑われた症例やIgA腎症の治療を含む臨床経過において、Gd-IgA1を測定することは重要な意味を持つ可能性があります。しかし、2024年現在の日本の動向としては、保険収載されて全国の医療機関で検査が受けられるようになる可能性はかなり低いと思われます。2024年7月より、株式会社レノプロテクトでは全国の医療機関や検査センターに先駆けて、Gd-IgA1受託測定サービスを開始しました。


 この検査の重要性を理解するためには「血尿」と「IgA腎症」について知る必要がありますので順に説明します。内容はやや専門的になりますが、一般の方にも理解がしやすいようにまとめておりますので、以下に該当する方はぜひご参照ください。また、株式会社レノプロテクトが提供する腎ドック(スタンダードプラン)を受診され、Gd-IgA1が測定された方は、Gd-IgA1がどんな検査なのか知るためにお役立てください。






・尿検査異常(血尿・蛋白尿)を指摘されている。

・数年前までは軽い血尿だけだったが、最近尿蛋白が陽性になった。

・尿検査異常で病院を受診して検査を受けたが原因不明と言われた。

・腎炎(IgA腎症)の可能性を指摘されたが今は経過観察で良いと言われている。


(図)

 見た目で、IgA腎症患者さんの血液中にはGd-IgA1が高濃度に含まれる傾向があることは把握できると思います。図中の3群それぞれの平均値を見るとより理解できると思います。ただし、IgA腎症でない腎臓病患者さんや腎臓病がない人においても一定の血中濃度があることが把握できます。

 なお、国際的に決められた基準値はありません。尿検査異常の程度、腎機能測定値や年齢などを加味して判断します。

IgA腎症患者の血中Gd-IgA1濃度は高い。
IgA腎症患者の血中Gd-IgA1濃度は高い。


血尿

 

 血尿(尿潜血反応陽性)は、健康診断受診者の5~10%で検出される、ごくありふれた検査異常です(労働安全衛生法が定めた健康診断で行われる尿検査項目は尿蛋白と尿糖だけですが、多くの健康診断では血尿も同時に検査されています)。血尿を調べる主な目的は、泌尿器系がん(腎がん・膀胱がんなど)と腎炎(IgA腎症を含む慢性糸球体腎炎)のスクリーニングで、二次検査や精密検査を行って血尿の原因が判明するのはわずか数%です。つまり、1,000人が尿検査を受けると、50~100人が血尿陽性となり、そのうち数名に泌尿器系がんや腎炎が検出される可能性があるという頻度です。


 軽微な血尿単独(尿蛋白などは陰性)の多くは、深刻でないことがほとんどですから過度な心配をする必要はまったくありません。ただし、頻度は低いものの、泌尿器系がんや腎炎である場合がありますので軽視して良いということではありませんし、むしろ、軽視してはいけません。


 血尿を指摘された場合、まずは泌尿器科への受診をお勧めします。血尿の原因が泌尿器系がんであったとして、毎年健康診断を受けている方では「進行がん」よりも「早期がん」の可能性が高いです。早期がんの検出において、内科医では対応に限界がありますから、スペシャリストである泌尿器科医への相談がより適切と考えられます。特に若い方では泌尿器科へ受診すること自体に感情的なハードルが高いことがありますが、ためらわないようにしましょう。時々、若い芸能人やテレビに出ている方が、腎細胞がんや膀胱がんであったことをカミングアウトされるように、血尿は軽度であっても異常ですから、原因をしっかり調べておきましょう。泌尿器科で「泌尿器科的に異常なし」と判断されたら、続いて、IgA腎症を含む「腎炎」の可能性を調べるために、内科医に相談するようにしてください。




IgA腎症

 

 IgA腎症は自己免疫異常による腎臓病です。国内患者数は約30,000人で、慢性糸球体腎炎(いわゆる腎炎の包括概念)で最も多い腎臓病です。20年以上という長期経過を辿り、30~40%の患者さんが透析を要する末期腎不全に陥る重要な病気であるため、日本では国が定める指定難病になっています。一度失った腎機能は回復しないことからも、早期診断が望ましい病気ではありますが、腎生検という侵襲性のある特殊検査でしか診断が付けられないため、早期診断に向かうことのハードルが決して低くない(むしろ高い)、悩ましい腎臓病なのです。


 IgA腎症の診断において、腎生検の代わりになる血液検査や尿検査は存在しません。血尿の二次検査のために医療機関を受診すると、尿の再検査と併せて血液検査が行われることがありますが、IgA腎症以外の腎炎のスクリーニング検査としては意味があっても、IgA腎症の診断にはほとんど役立ちません(IgA腎症を疑うかどうかについては、検査よりも医師としての経験や知識の方が明らかに役立ちます)。ここで紹介するGd-IgA1はIgA腎症研究で期待されているものの、腎生検の代わりにはなりませんから、Gd-IgA1検査でIgA腎症がより疑わしいと判定されたとしても、診断を確定するにはやはり腎生検が必須となります。


 さて、IgA腎症の初期は血尿だけであることが多く(血尿単独)、ほとんどの症例では尿蛋白は陰性です。発症からしばらく経つと(一般的には半年から数年以上の経過)、尿蛋白も陽性になることがありますが、この時点で腎生検を行うと、すでに糸球体の障害がかなり進んでいることがあります。このように書くと、様子見などせずに疑わしいならば早めに腎生検に踏み切るのが良いのではないかと考える方もいると思います。しかし、これが必ずしも正しいとは言えない理由が3つ挙げられます。



 ・IgA腎症の10~20%は無治療・経過観察で寛解する。

  (IgA腎症は治癒という概念がなく、治癒に近い状態のことを寛解と呼びます)

 ・尿蛋白が少ないIgA腎症は腎予後は良好とされている。

  (ただし、IgA腎症がない人と比べれば悪いため、経過観察が必要です。放置はだめです)

 ・腎生検は必ずしも安全ではない。


 未来を正しく予測することは誰にもできませんが、結果的に自然寛解するIgA腎症であったとして、万が一にも、検査自体で健康を害することがあれば、ベネフィットよりもリスクが上回ってしまうことも考えられなくないのです。一方で、血尿陽性かつ尿蛋白0.5g/gCr以上であれば、腎生検を提案されることが一般的です。


 尿検査異常の程度がごく軽度の時点で、早めに腎生検に踏み切って診断を付けるのか、それとも自然緩解が期待できると判断して経過観察としていくのか、尿蛋白が増えてきたり腎機能が悪くなってくることを確認してから腎生検を計画することで十分なのか、この判断は担当医の臨床力や各病院の医局の方針に大きく依存しています。年間数100件もの腎生検を実施している病院もあれば、年間数件しか実施しない病院もあり、本当に極端です。血尿を指摘され、二次検査や精密検査のために対面した担当医が「早期診断派」なのか「寛解を期待して経過観察派」なのか「悪化してくることを確認してから診断派」なのかを予め知ることはできません。そもそも血尿の原因としてIgA腎症が考えられることを教えて貰えないかもしれませんし、口頭で「あいじーえーじんしょう」と言われてすぐに病名を認識できる人の方が少ないでしょう。ネット検索などを用いて多くの情報を得ることができる時代になっていますから、自分の体の検査異常は自分が納得するまで調べておくことも求められると思います。




Gd-IgA1検査の受け方

 

・医療機関で

 2024年7月から検査受託サービスを開始したばかりですので、受けられる医療機関は限定的です。本検査は扱いやすい検査サービスになっておりますので、担当医がいる場合には相談してみてください。


・個人で

 2024年秋には、指先穿刺による微量採血検体を用いての検査受託を開始します。血尿含めた尿検査異常が気になっている方はご検討ください。


・腎ドックの一部として

 腎ドック(スタンダードプラン)を受けた方で、尿検査異常などの検査所見からIgA腎症が疑われた場合は、腎ドックの無料オプション検査としてGd-IgA1が測定されることがあります。血尿を指摘されて気になっている方は、株式会社レノプロテクトの提携医療機関で腎ドック(スタンダードプラン)を受けていただくのも一つです。ただし、測定是非は弊社にて決めますので、検査希望があっても検査されないことがあります。




IgA腎症臨床の未来予測

 

 IgA腎症の原因がGd-IgA1にあることが把握されてから、世界中の製薬会社がGd-IgA1をターゲットとした創薬を進め、現在10剤を超える新規治療薬が治験を行っています。これらの治験では血中Gd-IgA1値が治療により低下することなど、治療効果判定のための検査としてもGd-IgA1は使われています。早ければ、数年後にはIgA腎症の診断や治療の方針が大きく変わる時代がくるかもしれません。



 一方で、日本と海外の健康診断の内容の差異により、日本では早期のIgA腎症が検出されやすいという特徴があります。海外での健康診断では尿検査を行うことは一般的ではないため、明らかな症状(感冒後の褐色尿など)を自覚したり、ある程度病気が進んで腎機能が悪化するなどしないと発見されにくいと言われています。結果的に、日本では海外よりも早期発見・早期治療を行ってきた経緯があります。そして、この約20年間で治療法の中心となっている「口蓋扁桃摘出+ステロイドパルス療法(通称、扁摘パルス療法)」が功を奏し、早期治療介入することで多くの症例で、しかも比較的短期間で完全緩解に導けることも理解されてきました。



 そのため、日本で新規治療薬が保険収載されるにあたっては、扁摘パルス療法による治療効果と同等性を示すことが条件となる可能性が高く、この点で海外よりも保険収載のハードルはかなり高くなると考えられます。また、新規治療薬が保険収載されたとしても、IgA腎症の診断が腎生検に依存していることがボトルネックになる可能性があります(診断されなければ治療が行われることはありません)。もしかしたら、腎生検なしで、IgA腎症が強く疑われる場合も使用できることになったり、治療的診断が許される時代が来るかもしれませんが、この可能性は極めてゼロに近いと考えられます。ただし、Gd-IgA1測定がそのハードルを下げる可能性はあり得るかもしれません。


 新規治療薬が次々出てくることは、疾患を抱える患者さんにとって明るいニュースではありますが、上記のごとく、日本で保険収載されても広く使われるようになるかどうかは別問題です。一方で、新たな対象者として糖尿病患者さんがクローズアップされる可能性があるかもしれません。糖尿病患者さんの臨床経過において不相応な尿検査異常を認めて腎生検がなされた症例の1~3割がIgA腎症であったという報告は以前からそれなりにあります。しかし、実際に糖尿病患者さんにおいて不相応な尿検査異常を認めても腎生検が計画されることはかなり限定的です。また、腎生検が行われてIgA腎症が診断されても、現在主流の治療方法となる「扁摘パルス療法」ではステロイド薬を使用しますが、糖尿病患者さんにステロイドを投与すると必ず血糖管理が悪化します。「扁摘パルス療法」はフルで治療を行っても1年前後で終わるため、症例によっては長期的な腎機能の保持を目標として糖尿病の担当医と協力しながら短期集中的に治療を行い、寛解を狙う治療方針が考えられることもあります。一方で、短期であっても血糖管理が悪化することへの懸念からIgA腎症の治療介入を躊躇う医師も少なくないと聞きます。ステロイドではない新規治療薬が保険収載された場合、糖尿病患者さんにおけるIgA腎症への対応方法が大きく変わる未来がくるかもしれませんし、早期診断・早期介入を考えた場合、Gd-IgA1は重要な意味を持つようになると考えられます。




その他

 

<注意事項>

・本検査は研究検査(Research use only: RUO)のため、これでIgA腎症の診断はできません(IgA腎症は腎生検でのみ診断される腎臓病です)。

・腎生検は、担当医が個別に必要性を判断し、十分な説明を受けた患者が同意の上で実施されるものです。Gd-IgA1の陽性判定は腎生検を推奨するものではありません。



閲覧数:21回

最新記事

すべて表示

Comments


bottom of page