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Gd-IgA1

  • 臼井亮介
  • 2024年10月2日
  • 読了時間: 8分

更新日:20 時間前


 Gd-IgA1(ガラクトース欠損型異常糖鎖免疫グロブリンA1)


 Gd-IgA1はIgA腎症研究で注目されているバイオマーカー(診断検査)です。


 近年、IgA腎症の原因が、Gd-IgA1とこれに対する自己抗体であることが明らかになりました。そして、IgA腎症の患者さんの血中にはGd-IgA1が多く存在し(下図参照)、さらに、このGd-IgA1に対する自己抗体も多く存在していることが報告されています。この発見によって、これをターゲットとした創薬が急速に進み、現在10剤を超える新規治療薬が治験を行っています。この治験では、治療評価検査としてGd-IgA1が使用されています。


 このように、IgA腎症ではGd-IgA1は重要な意味を持ちます。しかし、現在の日本では、保険収載されて全国の医療機関で検査が受けられるようになる可能性はかなり低いと思われます。2024年7月より、株式会社レノプロテクトでは全国の医療機関や検査センターに先駆けて、Gd-IgA1受託測定サービスを開始しました。


 Gd-IgA1について理解するためには「血尿」と「IgA腎症」について知る必要がありますので順に説明します。内容はやや専門的ですが、一般の方にも理解しやすいようにまとめましたので、ぜひご参照ください。また、株式会社レノプロテクトが提供する腎ドックでGd-IgA1が測定された方は、Gd-IgA1がどんな検査なのか知るためにお役立てください。






・尿検査異常(血尿・蛋白尿)を指摘されている。

・数年前までは軽い血尿だけだったが、最近尿蛋白が陽性になった。

・尿検査異常で病院を受診して検査を受けたが原因不明と言われた。

・腎炎(IgA腎症)の可能性を指摘されたが今は経過観察で良いと言われている。

・血尿の指摘をされたことが無い方がワクチン接種後から血尿が陽性になった。

・腎ドックを受けたらGd-IgA1が測定されたがどんな検査かわからない。


(図)

 IgA腎症患者さんの血液中にはGd-IgA1が高濃度に含まれる傾向があることが把握できると思います。図中の3群のそれぞれの平均値を見るとより理解できると思います。ただし、IgA腎症でない腎臓病患者さんや腎臓病がない人においても一定の血中濃度があることと、国際的に決められた基準値がないことに注意が必要です。尿検査異常の程度、腎機能測定値や年齢などを加味して判断します(ただし、腎ドックでは5unit以上を陽性判定として報告書を作成しています)。

IgA腎症患者の血中Gd-IgA1濃度は高い。
IgA腎症患者のGd-IgA1濃度は高い。


血尿


 血尿(尿潜血反応陽性)は、健康診断受診者の5~10%に見られる一般的な検査異常です(多くの健康診断では尿蛋白と尿糖の検査に加えて血尿も調べています)。血尿を調べる主な目的は、泌尿器系がん(腎がん・膀胱がん)や腎炎(IgA腎症を含む慢性糸球体腎炎)のスクリーニングです。しかし、血尿の原因が判明するのはごくわずかで、1,000人中50~100人が血尿陽性となり、そのうち数人に病気が見つかる程度の頻度です。


 軽微な血尿単独(尿蛋白などが陰性)の場合、深刻でないことが多いため、過度に心配する必要はありません。しかし、泌尿器系がんや腎炎の可能性もあるため、軽視すべきではなく、むしろ注意が必要です。


 血尿を指摘された場合は、まず泌尿器科を受診することをお勧めします。特に健康診断を受けている方では「進行がん」より「早期がん」の可能性が高く、早期発見には泌尿器科医の専門的な対応が重要です。若い方にとって泌尿器科への受診は抵抗があるかもしれませんが、ためらわずに受診しましょう。芸能人などが腎細胞がんや膀胱がんを告白することもあるように、血尿は軽度であっても異常の兆候ですので、原因をきちんと調べることが重要です。泌尿器科で「異常なし」と判断された場合は、IgA腎症を含む腎炎の可能性を調べるため、内科医に相談してください。



IgA腎症


 IgA腎症は自己免疫異常による腎臓病で、国内患者数は約30,000人で、慢性糸球体腎炎の中で最も多い疾患です。20年以上の経過をたどり、30~40%が末期腎不全に至るため、日本では指定難病に指定されています。腎機能が一度失われると回復しないため、早期診断が望ましいものの、腎生検(侵襲性があるため入院を要します)が必要なため、早期診断のハードルがけっして低くない悩ましい病気です。


 IgA腎症の診断には腎生検以外の検査法はなく、血尿の二次検査で尿検査や血液検査が行われることがありますが、IgA腎症の診断にはほとんど役立ちません。IgA腎症を疑うかどうかは医師の経験や知識に大きく依存しています。血尿で受診される方は、この点をぜひ知っておいていただきたいです。


 IgA腎症の初期段階では、血尿のみで尿蛋白は陰性のことが多いです。発症から半年から数年経つと、尿蛋白が陽性になることがありますが、この時点で腎生検を行うと、糸球体障害がかなり進行していることが少なくありません。このように書くと、疑わしい時は早めに腎生検に踏み切るのが良いと考える方もいると思いますが、早期に腎生検を行うべきかどうかには、次の3点が理由で一概に言えません。



 ・IgA腎症の10~20%は無治療で寛解する。

  (IgA腎症は治癒という概念がなく、治癒に近い状態のことを寛解と呼びます)

 ・尿蛋白が少ない場合、腎予後は良好とされている。

  (ただし、IgA腎症がない人と比べれば悪いため、経過観察が必要です。放置はダメです)

 ・腎生検は必ずしも安全ではない。


 将来の予測は難しいですが、血尿陽性で尿蛋白が0.5g/gCr以上であれば、腎生検が提案されることが一般的です。しかし、自然寛解する可能性があるIgA腎症に対して腎生検を行うと、逆に健康を害するリスクが高くなることも考えられます。


 尿検査異常が軽微な段階で腎生検を行うべきか、経過観察で自然寛解を期待するか、腎機能が悪化してから腎生検を計画するかは、担当医の判断や病院の方針に依存します。年間百件以上の腎生検を行う病院もあれば、数件しか実施しない病院もあり、そのスタンスには大きな差があります。血尿を指摘された際に担当医がどのアプローチを取るかは予測できません。IgA腎症が考えられることを知らされることも少なく、「あいじーえーじんしょう」という病名を聞いてもすぐに理解できない方の方が多いでしょう。ネット検索などで情報を得ることができる現代では、自己の検査異常について調べておくことも大切です。



潜在的IgA腎症を検出する可能性


 新型コロナウイルスワクチン接種後、IgA腎症患者では肉眼的血尿(*)が現れたり、尿検査で一時的に血尿が悪化したり、血尿の指摘を受けたことがない人にも新たに血尿が現れる症例が報告されています。

(*)肉眼的血尿:真っ赤な尿を想像するかもしれませんが、褐色~コーラ色の尿であることが一般的です。



 感染症(特に扁桃腺炎や胃腸炎)による尿異常の悪化が、IgA腎症患者にみられる典型的な症状です。ワクチン接種後に発熱や倦怠感が続くことがあり、免疫反応が強く影響するため、尿異常が悪化するのも理解できます。また、ワクチン接種後に血尿が悪化するのは、女性に多い傾向があります。



一方、「ワクチン接種前に血尿を指摘されたことがない人での血尿」は、日本腎臓学会では、ワクチン接種による免疫の変化で潜在的なIgA腎症が顕在化した病態、と認識されています。実際にこれらの方に行われた腎生検では、ほぼ全例でIgA腎症と診断されています。



つまり、ワクチン接種前にGd-IgA1を測定することで、コロナワクチン接種後の血尿のリスクを予見できる可能性があります。ただし、Gd-IgA1にはIgA腎症の発症予測のエビデンスはなく、過剰診断や過剰医療が行われることは決して望まれません。



Gd-IgA1検査の受け方

・医療機関で

 受けられる医療機関は限定的ですが、本検査は扱いやすい検査サービスになっておりますので、担当医がいる場合には相談してみてください。


・腎ドックの一部として

 腎ドックを受けた方で、Gd-IgA1が測定されることがあります。血尿を指摘されて気になっている方は、株式会社レノプロテクトの提携医療機関で腎ドック(スタンダードプラン)を受けていただくのも一つです。ただし、測定是非は弊社にて決めますので、検査希望があっても検査されないことがあります。



IgA腎症臨床の未来予測


 IgA腎症の原因がGd-IgA1であることが明らかになった後、世界中の製薬会社はGd-IgA1をターゲットにした治療薬の開発を進め、現在10剤以上が治験中です。これらの治験では、Gd-IgA1が治療効果判定の指標として使用されています。数年後には、IgA腎症の診断や治療方針が大きく変わる可能性があります。



 日本では健康診断の内容の違いにより、IgA腎症が早期に発見されやすい特徴があります。実際、約70%の症例は健康診断の尿検査異常がきっかけです。一方、海外では尿検査が一般的でなく、症状(感冒後の褐色尿など)や検査異常(腎機能の明らかな悪化)が見られないと発見されにくいことがあります。このため、日本では早期発見・早期治療が進んでおり、特に「口蓋扁桃摘出+ステロイドパルス療法(扁摘パルス療法)」が有効で、短期間での完全緩解に導けることが理解されてきました。



 そのため、日本で新薬が保険収載される際には、扁摘パルス療法と同等の効果を示すことが求められる可能性が高く、保険収載のハードルは海外より高いと考えられます。また、IgA腎症の診断は依然として腎生検に依存しており、診断なしでは治療が進まないのが現状です。しかし、数多くの新薬が次々と登場すると、これまで腎生検に慎重だった医師が急にスタンスを変える可能性が十分に考えられますし、Gd-IgA1測定が診断のハードルを下げる可能性もあります。



 新薬の登場は患者にとって朗報ですが、扁摘パルス療法で寛解可能な症例が多いため、新薬が広く使われるかは別問題です。一方、糖尿病患者が新たな対象者となる可能性もあります。糖尿病患者においては、不相応な尿検査異常が認められた際、腎生検でIgA腎症と診断されることがありますが、ステロイド投与により血糖管理が悪化するため、治療が躊躇されることも少なくありません。そのため、ステロイド以外の新薬が保険収載されれば、糖尿病患者におけるIgA腎症治療が大きく変わる可能性があります。早期診断・早期介入を考慮すると、糖尿病患者で血尿が認められた場合、Gd-IgA1の重要性が増すかもしれません。



その他


<注意事項>

・本検査は研究検査(Research use only: RUO)のため、これでIgA腎症の診断はできません(IgA腎症は腎生検でのみ診断される腎臓病です)。

・腎生検は、担当医が個別に必要性を判断し、十分な説明を受けた患者が同意の上で実施されるものです。Gd-IgA1高値や陽性判定は腎生検を推奨するものではありません。



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