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慢性腎臓病予防の「基本のキ」について【腎臓専門医が解説】

  • 執筆者の写真: 臼井亮介
    臼井亮介
  • 6 日前
  • 読了時間: 9分

更新日:1 日前


 こんにちは。株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介(腎臓専門医・指導医)です。


 慢性腎臓病(CKD)を予防するための「基本のキ」についてお話ししますが、今回は最初に結論をズバリ書きます。

 それは、「定期検査を受け、データを積み重ね、その『推移(数値の坂道の角度)』を把握すること」です。


 「えっ?検査を受けても腎臓が良くなるわけじゃないのに、なぜそれが予防になるの?」と疑問に思った方も少なくないはずです。ぜひ最後までお読みください。読み終わる頃には、なぜ定期検査こそがあなたの腎臓を守る最強の武器になるのかが、すっきりと理解できているはずです。


 このコラムは、ネット検索やAIが提示するような「お決まりの回答」とは異なる視点で、特に以下のような方に向けて書きました。

  • 健康診断で腎機能が「C判定(要経過観察)」となってモヤモヤしている方

  • 家族や知人がCKDになり、「自分は予防したい」と真剣に情報を集めている方

  • 最近、熱中症や薬の影響で「急性腎障害(一時的な腎機能低下)」になり、今後の経過が不安な方


 すでにCKDの診断を受けている方にも重要なヒントになりますが、通院中の方はまずはご自身の担当医の治療方針を最優先にしてください。

 それでは宜しくお願いします。



そもそも生活習慣は「簡単には変えられない」


 「CKDは生活習慣病の一つ」とされています。これは裏を返せば、どんなに最先端の薬を使っても、あなたの腎臓にとって負担になる生活習慣をそのままにしていれば、悪化を食い止めるのは難しいということです。逆に、治療と並行して「自分の腎臓に優しい習慣」を整えられれば、腎臓の寿命は驚くほど延びます。


 腎臓専門外来にいると、患者さんから生活習慣について実にたくさんの質問をいただきます。

  • 「やっぱり塩分は控えないとダメなんですよね?」

  • 「お肉(タンパク質)って腎臓に毒なんですか?」

  • 「雑誌に『〇〇を食べれば腎臓が若返る』って書いてあったけど本当?」

  • 「血圧計はあるんですけど、忙しくて測れていないです……」

  • 「体重計に乗るの、ついつい忘れるんですよね」

  • 「(夏)暑くて熱中症が怖いから、運動なんてできませんよね」


 これらに対する「正しい答え」は、実は一人ひとり異なります。一般的に「腎臓に良い」とされる習慣が、本当に「あなたの腎臓」にも良い効果があるのかどうかは、私たち専門医であっても、ある程度の時間をかけてデータを追わないと評価できません。


 それに、何より認識してほしいのは、

そもそも、「生活習慣を変えるのは、めちゃくちゃ大変である」という事実です。


 生活習慣の専門家であるはずの医師も、普通に生活習慣病になります。しかも、医師の平均寿命は一般の方より5〜10歳短いというデータもあるほどです。


 ちなみに私自身はコレステロール値が高く、薬を飲んで基準値内にコントロールしています。最低限の筋トレはしていますし、太らないよう体重管理に気を遣っていますが、コレステロールを下げるほどの有酸素運動は全くできていません。また、食べ過ぎには注意していますが、コレステロールのことを考えながら食べることは一切していません。


 医師の私ですらこれですから、無症状で健康な方が10年や20年先の未来のために生活習慣を変えて実行し続けることは、そう簡単ではありません。新たな習慣の獲得と維持には、「強力な納得感(理由)」と「莫大なエネルギー」が必要です。


 だからこそ、私は「まず定期検査を前向きに受けること」こそが、最もリーズナブルで、コスパもタイパ(タイムパフォーマンス)も良い予防策だと確信しています。



ローマは一日にして成らず。独学での「解像度」が未来を変える


 定期検査を強くお勧めしますが、あなたが専門医レベルの知識を身につける必要はありません。ただ、「ちょっとだけ努力して勉強し、自分の体の数値に対する解像度(理解の細かさ)を上げられた人」のほうが、高い確率で腎臓病を予防できます


 まだ病気になっていない「予防ステージ」の段階では、気軽に相談できる担当医はいませんから、あなた自身の「正しい独学」が、将来の腎臓を守る最大の鍵になります。


 「医学知識がないのに無理だよ」と思われるかもしれません。でも、家を買うとき、不動産のプロじゃなくても地価や住宅ローンを一生懸命調べますよね。保険に入るときも、パンフレットを比較して自分に最適なプランを考えると思います。大学受験にあたっては、各大学の過去問から傾向と対策を把握して勉強を進めるでしょう。


 人生を左右する大きな選択をするとき、私たちは自然と調べて勉強するはずです。「自分の腎臓を守る」というプロジェクトも、まさにそれと同じ投資なのです。



あなたの腎機能の「現在地」を把握する=「老化」を認知すること


 まずは、ご自身の腎機能の現在地を知ることから始めましょう。以下のグラフは、日本人の年代ごと腎機能(eGFR)平均値の推移を示したものです。


年代別eGFR平均値について
年代別 推算糸球体ろ過量(eGFR)

 腎機能のピークは20代で、eGFRの基準値は「90以上が正常」とされていますが、40歳を過ぎれば、ほとんどの人が90未満になります。


 現在のあなたのeGFR値は、年齢相応でしょうか? eGFRが90を下回っている場合、「自分の腎臓も、すでに少しずつ老化が始まっているんだな」と素直に認めることが大切です。ただ、eGFRが90を下回っていても、年齢相応であれば「上手な年の取り方をしている」ということですので、基本的にはご安心ください。


 老化自体は誰にも止められません。しかし、その「スピード」は生活習慣によって変えられます。老化に抗う(アンチエイジング)生活習慣のポイントは、食事・運動・睡眠の三本柱を中心に定期的に見直し、無理のない範囲で軌道修正をしていくことです。また、生活習慣病を持病とされる方で、特に高血圧症と糖尿病は治療管理目標を改めて再認識しておきましょう。血圧は病院で測ってもらうもの、血圧は少し高めが調子良いとか思っていませんか?


 検査で見つかった「腎臓の老化」は、まずは静かに受け入れましょう。人間の臓器にはもともと大きな余力(予備能)がありますから、すぐに大ごとになるわけではありません。40〜55歳は、老後を見据えて「自分の臓器の加齢変化」に一度きちんと向き合う、ベストなタイミングなのです。


 もし、年齢に見合わないほど数値が低かったり、下がり方が急だと感じたりした場合は、CKDが疑われないeGFR60以上であっても、「半年に1回の定期検査」をお勧めします(年齢相応なら、年1回の健診断で十分です)。



点ではなく「線」で見る。現在までの軌跡から未来を予測し、腎臓病を予防する「eGFRスロープ」


 現在の数値が良くても悪くても、必ずやっていただきたいのが「過去から現在までの数値の変化(推移)を追うこと」です。


 健康診断の結果を3〜5年分、可能なら20代の頃のものから引っ張り出して、並べてみてください。数値が描く坂道の角度こそが、あなたが歩んできた「腎臓の老化スピード」そのものです。


 一般的に、eGFRは加齢とともに「毎年およそ0.5」ずつ自然低下していきます。もし、eGFR値が60以上で健康な段階であっても、「毎年2以上」のペースで低下しているなら、あなたの腎臓にとって明らかに好ましくない「何か(原因)」が起きています。このような検査値の見方が、将来的な腎臓病の予防に直結していきます。(原因検索と対応については他のコラムをお読みください)

(※注:健康診断でよく測る「クレアチニン」という数値は、その日の水分量や筋肉量でブレやすいため、1回ごとの一喜一憂は不要です。だからこそ複数回のデータが必要になります)


 最近、医療業界では「eGFRスロープ(傾き)」という言葉がよく使われるようになりました。これは、何点かの検査データを結んで「線」にし、その傾き(低下スピード)で治療効果を判定するアプローチです。私たち専門医は、この言葉が生まれるはるか昔から当たり前のようにこれを行ってきました。腎臓を守るためには、現在の数値(点)ではなく、これまでの軌跡(線)を見ることが最も重要だからです。


 一般論として「減塩」「運動」「血圧管理」が大事と言われますが、それが「あなたの腎臓」に本当に効いているかどうかは、検査をして推移を見なければ分かりません。検査の推移を見ずに、手探りで腎臓に良さそうなことをやり続けても効果が見えない上、数値自体は少しずつ下がっていくため(老化は止められない)、「やっぱり、腎臓は一度悪くなったら良くすることができないんだ……」という諦め感に繋がってしまいます。


 「努力した結果、数値の低下が緩やかになった!」という実感(データ)こそが、生活習慣を維持するための最大のモチベーション(ご褒美)になります。 もし、努力に対して結果がついてこない場合は、努力の向きや種類が間違っている可能性もあります。定期検査は、そうした「努力の見直しのきっかけ」も私たちに与えてくれるのです。


「あなただけの正解」を見つけるための、一歩進んだ検査


 最後に、健康なうちにこそ受けていただきたい、「賢い検査」を2つご紹介します。


① シスタチンC(Cystatin C)

 一般的な健康診断で測る「クレアチニン」は、腎機能とはまったく関係のない筋肉量に影響を受けることと、さらに「腎機能が半分近くまで落ち込まないと異常を検知できない」という弱点(ブラインド領域)があります。その点、シスタチンCは筋肉量に左右されず、健康な段階の微細な腎機能の低下も正確にキャッチできます。ただ、日本の医療現場では「保険診療の壁」があり、健康な人にはなかなか測定してもらえないのが現状です。もし機会があれば、自費(自由診療)であっても一度測定してみる価値は十分にあります。

② ウロモジュリン(Uromodulin)

 もう一つ、次世代の指標として注目したいのが「ウロモジュリン」です。これは腎臓(尿細管)だけで作られる、まさに「腎臓特有のタンパク質」です。腎臓が発する「生の声」をダイレクトに聴き取ることができます。まさしく、腎臓の予備力や生命力を見える化する、とても重要な検査です。


 これからの時代、ただ長生きするだけでなく、自分の足で立ち、自分の腎臓で元気に生きていくために「予防」は大変重要となってきます。

 まずは過去の健康診断の引き出しを開け、あなたの「腎臓の現在地と歩み」を確認することから始めてみてください。



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