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「シスタチンCを測ってくれない問題」について【腎臓専門医が解説】

執筆者の写真: 臼井亮介
臼井亮介
9月3日
読了時間: 9分

更新日:9月8日


 こんにちは、株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介(腎臓専門医・指導医)です。


 変なタイトル…と感じたでしょうか。実はこの「シスタチンCを測ってくれない問題」が全国で静かな話題となっています。なぜか頑なに測定を拒む医師が全国的にも少なくなく、事実、定期的に私の元にも全国の方から切実な声が届いています。そしてこの課題は、今後さらに拡大していくことが予想されます。


 このコラムに辿り着いたあなたは、次のような悩みを抱えていませんか?

  • 病院で「クレアチニン値がやや高め」「eGFRがやや低め」と言われた

  • 健康診断で「腎機能にC判定」がついた

  • 基準値内ではあるが、自分自身の腎機能がやや低めに感じていて不安がある


 さらに、医療機関を受診した際、次のような経験をされた方も多いはずです。

  • 医師にシスタチンC測定を相談したが、「必要ない」と一蹴された

  • 毎回採血をするのに、シスタチンCは何度お願いしても断られる

  • 「しばらく経過を見て、必要があれば…」とやんわり拒否された

  • 定期測定をお願いしたら、「繰り返しの測定はできない」と言われた


 本コラムは、主に『60歳未満で腎機能低下を指摘され、シスタチンCの情報を集めている方』に向けて、医療現場の実情と背景、そして患者さんが取るべき具体的なアクションをわかりやすく解説します。それでは宜しくお願いします。



腎機能低下は決して「自分だけ」の特殊な問題ではない


 慢性腎臓病(CKD)は、eGFR(推算糸球体ろ過量)60未満が3ヶ月以上続くことで診断される慢性疾患です。


 CKDと診断されて「なんで自分だけ…」とショックを受ける方が多いのですが、2024年の推計によるとCKDの国内患者数はなんと約2,000万人。実に「成人の5人に1人」が該当する計算になり、誰もが抱え得る極めて身近な健康問題なのです。



「クレアチニン換算eGFR」の過剰診断を疑うことの重要性


 CKDは自覚症状がほぼ無いため、ほとんどの方は検査異常が出て初めて知ることになります。ここで、診断に用いられる検査(クレアチニンとクレアチニン換算eGFR)について簡単に確認しておきましょう。


 最も一般的な腎機能評価検査であるクレアチニンは「筋肉量」に強く影響を受けるという特徴があり、CKDの診断に用いられるeGFRは「血清クレアチニン値」から計算された『推算値(推定値)』に過ぎません。


 そのため、筋肉量が豊富な方や普段から運動習慣がある方は、腎機能自体に大きな問題がなくてもクレアチニンが高め(eGFRが低め)に出てしまい、「CKDの疑い」「要再検査(C判定)」と判定されやすいのです。特に筋肉量の多い若い世代(25~60歳)では、この「過剰診断」が顕著に現れます


 一方で、高齢者は筋肉量が少ないためクレアチニン値が低く出やすく、若者と同じ基準で判断するとCKDの見落しが増えてしまいます。そこで、高齢者ではよりeGFRで慎重に判断することが求められます。


 そもそもeGFRの第一義は、個人の正確な腎機能評価ではなく、「CKDのスクリーニング(ふるい分け)」です。上記のように、「高齢者のかくれCKD」の見落としを防ぐ工夫がされている反面、若年層ではどうしても過剰診断(実際は正常なのに引っかかる)が起きやすい構造になっています。


 ただし、若年層で腎機能低下を指摘されたときに「どうせ過剰診断だろう」と勝手に解釈して放置することはまったく勧められません。クレアチニン換算eGFRで「腎機能が低め」「C判定」となった場合、「本当に腎臓が悪いのか、それともたんなる過剰診断なのか」を見極める必要があり、そのために次に行うべき決定的な検査こそが、「シスタチンC」なのです。



シスタチンCを測定することの重要性


 シスタチンCは全身の細胞から一定速度で産生されるため、筋肉量の影響をほとんど受けないとされています(※脂肪量の影響は一部受けます)。シスタチンCから算出したeGFRを見ることで、より正確な腎機能を評価できます。健診でC判定となった方のうち、シスタチンCを測ると診断基準から外れるケースは山ほど存在します。


 ここで、株式会社レノプロテクトで扱っている「腎ドック」での実データを少しだけ紹介します。

腎ドック受診者のうち、クレアチニン換算eGFRで「eGFR45~60(CKDステージG3a、健診C判定)」に該当した246名のうち、シスタチンC換算でも「eGFR45~60」のCKDに該当したのはわずか29名でした(11.7%)。

 約9割近くの方が、シスタチンCで測定し直すことで、「実際には基準値内」の判定になったのです。たったこれだけのデータからも、シスタチンCを測っておくことの重要性がご理解いただけるのではないでしょうか。


 続いて、押さえていただきたいポイントが2点あります。


1. 測定しない限り「生涯CKD」扱いになるリスク

 クレアチニン換算eGFRでCKDが疑われた場合、シスタチンCで評価し直さない限り、あなたは書類上・診断上「一生涯にわたりCKD患者」として扱われ続けてしまうリスクを抱え込んでしまいます。

 これは特に若い方で注意が必要で、たんなる病名の問題にとどまりません。CKDの重症度判定によっては、住宅ローンを組む際の団体信用生命保険(団信)の審査が通らなかったり、医療保険や生命保険への新規加入・見直しが困難になったりするという実害が生じうるのです。

2. 「問題なし」でも自分の現在地を知る意義

 仮にシスタチンCを測ってCKDの診断から外れたとしても、シスタチンC測定を必要としている時点で同世代の日本人平均と比べれば「やや低め」に位置している可能性があります。自分の本来の「腎機能の現在地」を把握しておくことは、今後のライフスタイルの見直しや定期健診の意識を高める上で極めて有益です。



2027年、労働安全衛生法改正で「腎機能C判定スルー」時代が終焉する


 さらに大きな時代の変化が迫っています。2026年の労働安全衛生法改正に伴い、2027年度から職場健診において40歳以上の従業員に対するクレアチニン測定が義務化されます。


 これまでも会社健診でクレアチニンを測定する事業所はありましたが、義務化前は労基署への結果報告義務もなく、産業医や会社側も腎機能C判定は「ほぼスルー」してきたのが実情です。受診者側も「症状がないから」と放置しがちでした。


 しかし、今回の法改正は「職場環境が腎臓に与える影響や、腎臓を守る予防投資の費用対効果(企業の利益向上)」が医学的・経済的に証明されたことによるものです。2027年度以降は、会社側からの二次検診勧奨が格段に強まります。そして、初めてC判定がついた方も、数年前からずっと「C判定」を放置してきた方も一斉に病院へ再検査に向かい、ネットで調べる中で気づくはずです。


 「腎機能は一度失うと戻らない。でも自分は本当にCKDなのか?単にクレアチニンで悪く見えているだけなのか?それを知るにはシスタチンCが必要だ」


 こうして「シスタチンCを測ってほしい対象者」が急増し、医療現場の混乱と「測ってくれない問題」がさらに顕在化することが予想されるのです。



なぜ医師はシスタチンCを測ってくれないのか?(医療現場の裏事情)


 受診者がどれほど測定を希望しても、現場の医師が拒絶してしまうのには、医療保険制度と現場の構造的な理由があります。


1. 医師側の「測定経験不足」

 シスタチンCは保険適用検査のため、保険適応に則しているのであればどの医療機関でも検査自体は実施可能です。しかし、腎臓領域は数多くの診療科の中でも専門性が高く(腎臓内科はとてもマイナーな分野です…)、多くの医師にとって、「シスタチンCは滅多に使わない特殊な検査」と認識されています。腎臓内科医であっても、私のように何千症例も測定してきた経験を持つ医師は非常に限られています。

2. 保険適用のルールと「確定病名」の罠

 公的保険においてシスタチンCは「尿素窒素またはクレアチニンにより腎機能低下が疑われた場合に、3か月に1回に限り算定できる」とされています。ここで陥りがちな罠が電子カルテの病名です。カルテ上に「慢性腎臓病」や「腎不全」や「腎機能低下」といった確定診断名がついている状態でシスタチンCを測定すると、保険審査で「確定診断がついているなら測定不要」とみなされ、高確率で(地域によってはほぼ100%)査定(保険カット)されます。

 加えて、今後はマイナンバーカード等による医療機関同士の病名共有が進む動きもあります。いったん上記のようなCKD関連の確定病名が入力されてしまうと、シスタチンC測定のハードルが一段と上がってしまう可能性もあるのです。

3. レセプト査定による「持ち出し(赤字)」のリスク

 審査支払機関(支払基金など)の査定基準は非常に厳格です。医師が必要だと判断して検査を行っても、「病名不十分」「クレアチニンで十分」といった理由で検査費用がカットされる頻度が極めて高い検査です。査定されると費用は医療機関の自腹(持ち出し)になるため、再審査のために「症状詳記」という理由書を長々と書いて提出しなければなりません。しかし、たかだか数千円の利益に対して手間がかかり過ぎます。シスタチンCで査定される苦い経験をした医師は「リスクを冒してまでシスタチンCは測らない」と防衛的になってしまうのです。



「測ってくれない」ときに患者さんが取るべき現実的な対処法


 現場の医師が測定を拒む背景には、知識や経験不足だけでなくこうした制度的・経営的な理由があります。医師は常に患者さんのメリットを考えて検査や治療を検討していますが、それはけっしてボランティアではありません。そのため、診察室で感情的になったり、無理に要求したりすることは得策ではありません。お互いの関係が悪化するだけですので、一度素直に引きましょう。


 現実的なアプローチとしては、以下をお勧めします。


1. シスタチンCに理解のある医療機関を探す

 最近では、ホームページやブログでシスタチンCの有用性について発信している医療機関・医師が増えてきています。そうした「現場の事情とシスタチンCの価値を双方理解している医師」を調べて受診するのが最もスムーズです。面倒と思われるかもしれませんが、特に若い世代では人生上のメリットの方が遥かに大きいと言えます。

2. 「最初の一回」だけ正確な現在地を知りたいと伝える

 もし現在の担当医と交渉する場合は、「毎回の定期検査としてではなく、自分の筋肉量による影響(過剰診断かどうか)を一度だけ正確にクリアにしたい」という意図を丁寧に伝えてみるのも有効かもしれません。



おわりに


 「シスタチンCを測ってくれない問題」の背景には、医療制度の厳格さと、査定リスクに怯えざるを得ない現場の実情が存在します。シスタチンCはとても有用な検査ですので、様々な課題や問題が解消し、将来的な普及拡大を期待したい、というのが本コラムで伝えたい私の真意です。


 自分の大切な腎機能を正確に知り、不要なCKDのレッテルや将来への不安を解消することは、これからの人生において極めて価値のあることです。この問題の構造を正しく知った上で、会社の人事労務・産業医への相談や、理解のある医師との前向きな対話を進めてみてください。



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