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熱中症に注意 - 日本の夏は腎臓の新たなリスクファクター

  • 執筆者の写真: 臼井亮介
    臼井亮介
  • 2025年5月19日
  • 読了時間: 6分

更新日:4 日前


 こんにちは。株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介です(日本腎臓学会専門医・指導医)。

 5月を迎えると、熱中症のニュースが増えてきます。真夏のような猛暑ではないこの時期、「まだそんなに暑くないのに熱中症?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、体が暑さに慣れていない今こそ、急な気温の上昇によって熱中症のリスクが高まります。

 今回は、熱中症が引き起こす「急性腎障害(AKI)」とその後遺症が将来的な腎機能に与える影響について、分かりやすく解説します。本格的な夏を迎える前に、ぜひお読みいただき、夏の健康管理にお役立てください。

(更新:2026年4月27日)



慢性腎臓病と急性腎障害の深い関係:はじめに


 慢性腎臓病(CKD)の原因として、糖尿病や高血圧症といった生活習慣病が全体の約7割を占めます。さらに、慢性糸球体腎炎や遺伝性疾患、膠原病などによる腎障害が約2割、残りの2割が「原因不明」とされています。実は、この「原因不明」とされるケースの中には、急性腎障害の後遺症をきっかけとして腎不全にいたる患者さんが少なくありません(急性腎障害は気付かないこともあります)


 急性腎障害は、早期に適切な治療を行えば十分な回復が期待できますが、必ずしも元の状態まで戻るとは限りません。腎機能評価検査クレアチニンにはブラインド領域と呼ばれる検査限界があることから、急性腎障害の病態ではそもそも十分な評価が困難なうえ、回復後も腎機能の経過を十分にフォローされるケースはほとんどありません。


 腎機能は加齢とともに緩やかに低下するとはいえ、基礎疾患(糖尿病や高血症圧や慢性糸球体腎炎など)がない方が60歳未満で半分以上の腎機能を失うことはまったく普通ではありません。多くは原因不明として片付けられてしまいますが、「急性腎障害の後遺症」の可能性が高いと考えられます。


 普通に年を取っていけば、腎機能は70代で約6割、80歳で約5割まで低下し、70代以降では2~4人に1人が慢性腎臓病の診断基準に該当してきます。しかし、若い頃に急性腎障害で5~10%の腎機能を失えば、それよりも10~20年早く慢性腎臓病に陥ってしまうことは、どなたでも理解できると思います。


 2000年以前は急性腎障害はまれで(当初は急性腎不全と呼ばれていました)、しかも「治る病気」と考えられていました。しかし近年の研究では、急性腎障害は予想以上に頻繁に発生し、一定の後遺症を残し、しかも一度経験すると繰り返しやすくなることがわかってきました。そして、繰り返すたびに腎機能の回復が不完全となり、段階的に腎機能が低下し、次第に慢性腎臓病へ、そして、腎不全へと進行していくこともわかってきました。


 近年、糖尿病や高血圧症、慢性糸球体腎炎に対する治療が進歩してきた一方で、脱水や薬剤、尿路結石などが引き金となる急性腎障害の発症数は増加傾向にあります。生活習慣病や腎炎の最先端の治療を受けていても、1回の急性腎障害エピソードで最先端治療による腎保護作用など一瞬で消し飛んでしまうインパクトがあります。


 日本は世界でも有数の長寿国で、今後さらに寿命が延びることを考慮すると、若いうちから「急性腎障害をどう防ぐか、どう回避していくか」は、生活習慣病に次ぐ重要な健康課題と言えるのです。



日本の夏、そして熱中症がもたらす腎機能への影響


 近年の日本の夏は、かつてないほどの猛暑が続いています。この猛烈な暑さが私たちの体に大きな負担をかけますが、中でも注意すべきは、熱中症による腎機能障害です。脱水状態では、腎臓への血流が不足し、急性腎障害を引き起こすリスクが高まります。


 総務省の発表によると、熱中症による救急搬送者数は、2024年に97,578人と過去最多を記録し、2025年には10,510人とさらに過去最多を更新しました。そのうち、約3割が急性腎障害を併発していると言われています。さらに、その3割が完全には腎機能が回復せず、後遺症を残すとされています。救急搬送されるほどではない軽症の熱中症でも、約1割に急性腎障害が起こっており、そのうち3割はやはり一定の後遺症を残す可能性があります。


 つまり、糖尿病や高血圧症の基礎疾患がなくても、日本で生活する人にとって、日本の夏は「腎機能低下の新たなリスク」となりうるのです。当然ながら、慢性腎臓病の二大原因疾患とされる、糖尿病と高血圧症の持病がある方ではより大きなリスクとなります。


熱中症による救急搬送数の推移。2025年は過去最多の10万人超でした。
熱中症による救急搬送数の推移


熱中症から腎機能を守るために ― 予防のポイント


 腎機能へのダメージを防ぐためには、熱中症を予防することが何よりも大切です。特に以下のポイントを意識しましょう。


  • こまめな水分補給:喉が渇く前に、定期的に水分を摂るように心がけましょう。

  • 涼しい環境を保つ:エアコンや扇風機を上手に使い、室温管理を徹底しましょう。

  • 軽装での対策:通気性のよい服を選び、帽子や日傘などで直射日光を避けましょう。

  • 定期的な休息:炎天下での活動時は、こまめに休憩を取り、無理をしないことが大切です。

  • 体調管理:尿の色や量、血圧、体重の変化に日々注意を払いましょう。

  • 食事の工夫:栄養バランスのとれた食事が、暑さに強い体をつくります。


 上記の中で「塩分摂取」が無いと気付いた方はするどいです。実は、2025年に日本高血圧学会から熱中症対策についての声明文が出され、「大量に汗をかいた場合でも、普通の食事を取っていれば塩分を増やす必要はありません」という一文が加わりました。これまで関連省庁や関連学会やマスコミで、熱中症対策として適度な塩分摂取(スポーツドリンクや塩タブレットなどを含む)を推奨してきましたので、関連機関の一部で方針転換になったことをお知らせします。


 OS-1で500mL中の塩分1.5g、スポーツドリンクで500mL中の塩分0.5gです。たしかに、これらのドリンクで何となくな熱中症対策をするよりも、夏は食事を抜かず、十分な栄養管理を心がけておく方が重要です。



夏を越えたら腎機能チェックを


 さて、夏は一年の中で最も腎機能が悪く見える季節です。これは、暑さによって体内の水分が減り、血液中のクレアチニン濃度が相対的に高く測定されるためです。秋になって気温が落ち着くと、クレアチニン値も低下するのが一般的です。


 しかし、秋の値が春や初夏と比べて0.1 mg/dL以上高いままの場合は、夏の間に腎機能を悪化させた可能性があります。ぜひ夏の過ごし方を振り返ってみてください。0.1mg/dL上昇を問題視しない人は医師も含めてかなり多いですが、クレアチニン値が正常範囲内にある方にとっての0.1は、eGFRで約10を意味し、基準値をすでに超えている方では、eGFRで約5を意味します。たかだか夏を1回越えただけで約5~10%の腎機能を失ったインパクトがありますから、けっして軽視しないでください。夏は毎年来ることを忘れずに!


 一方で、夏を越えてクレアチニン値が下がっている場合、腎機能が改善したと安心するのは多くの場合、誤りです。特に体重が変わらないのにクレアチニン値だけが下がった場合は、筋肉量が減り、その分体脂肪が増えた可能性があります。秋は運動を始めやすい季節ですから、運動習慣を見直し、健康的な体づくりを目指すと良いでしょう。



 また、夏に腎機能が悪化しやすい背景として、以下のような条件に当てはまる方は特に注意が必要です:

  • 高血圧症治療中の方

  • 痛み止め(NSAIDs)をよく使う方

  • 骨粗鬆症でビタミンD製剤を内服している方

  • 利尿剤を使用している方


 夏が終わったら、ぜひ一度腎機能をチェックし、上記のような視点で検査結果の推移を確認してみてください。


 まずは、これから迎える夏を、しっかり対策して元気に乗り越えていきましょう。



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