慢性腎臓病患者数「2000万人時代」の真実 ── 専門医が伝えたい数値の裏側と個別評価の重要性
- 臼井亮介

- 5月17日
- 読了時間: 7分
更新日:7 日前
こんにちは。株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介(日本腎臓学会専門医・指導医)です。
「日本の慢性腎臓病(CKD)患者数は約2,000万人」。
現在、メディアや啓発活動でこの数字が盛んに叫ばれています。成人の約5人に1人がCKDという計算になりますが、皆さんの実感としてはいかがでしょうか。「身近で全然聞かないのに、本当にそんなに多くの患者さんがいるのだろうか?」という違和感を抱いている方も少なくないはずです。
実は、腎機能を損ない、最終的に透析が必要となる方は年間4万人弱です。透析回避のための早期発見・早期治療は極めて重要ですが、統計的に見ればCKD患者さん全体の中で年間に透析に至る割合はわずか年間0.2%程度。
「透析にならないために」という大義名分は正しいものですが、1%にも満たないリスクを根拠に、これほど膨大な数の人々を一律に「病人」として扱うことは妥当なのでしょうか。2,000万人という数字の裏側にある「真実」について、お話していきたいと思います。
本コラムは、健康診断等で腎機能低下の指摘を受け、「将来的に透析になるのでは?」という不安を感じている方へ向けての総論的な内容となっています。すでに診断を受け通院中の方は、担当医師と相談の上、治療を継続してください。それでは宜しくお願いします。
慢性腎臓病患者数2,000万人という数字の真偽
CKDには、クレアチニン換算推算糸球体ろ過量(eGFR-cre)が60未満という明確な診断基準があります。健診データからこれに該当する人を抽出すると、確かに約2,000万人となるため、この推計自体は嘘ではありません。
ではなぜ、それほど身近に感じないのでしょうか。
最大の原因は、eGFR-creが60を下回っていても、ご自身がCKDと認識していないケースが圧倒的に多いためです。また、eGFRが40~60程度であれば、「少し低めですが様子を見ましょう」と留め、確定的な診断名まで言及しない医師も少なくありません。本人が認識していなければ他人に話すこともありませんから、周囲からは見えにくいのです。
一方で、健診では「血液濃縮(食事や飲水を控えること)」の影響でクレアチニン値が高めに出て、腎機能が「過小評価」されやすい問題や、約20年前に作られたeGFR計算式が現代の日本人の腎機能評価に合わなくなってきている可能性も、専門医の視点として無視できない原因なのです。
透析よりも先に訪れる「真のリスク」
初めて腎機能低下を指摘されると、多くの方が「将来透析になるのか…」と不安になります。病院でも、「透析回避」が治療目的と説明されることが多いと思われます。しかし、国内患者数2,000万人という視点では、ほとんどのCKD患者さんは透析とは縁がありません(※ただし、専門外来に通院中の方の中には、専門医が個別に高いリスクを予見している場合があります。決して楽観視せず治療を継続することが大切です)。
実は、CKD患者さんが直面する真の脅威は、透析に至る前の段階で起こる心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中)、免疫力低下による感染症、あるいは骨粗しょう症による骨折といった合併症です。これらはけっして軽いものではなく、時に致命的で、それまでの生活を一変させてしまうインパクトがあるものです。そして、これらの発症が腎臓に強烈なダメージとなり、透析に一気に近づいてしまうことがあります。透析を開始した後ではこれら合併症の発症リスクはさらに上がりますから、早めの合併症評価と管理が望まれるのです。
eGFR-creが60を下回る状態は、いわば「腎臓年齢80歳」に相当します。つまり、これは「透析」の心配より、「全身の老化」を示すシグナルとして捉えるのが自然です。60歳でeGFR-cre60とは、実年齢は60歳だけど身体年齢や臓器年齢はもっと先に進んでいるかもしれないということです。腎臓だけに固執せず、弱点を探り、そこを補強する。この視点への転換こそが、透析への過剰な不安から脱却し、結果的に、命と腎臓を守る第一歩となります。
eGFR計算式の功績と、生じている「ズレ」
現在主流のクレアチニン換算eGFR(eGFR-cre)計算式は、約20年前に「高齢者の隠れ腎臓病を見逃さないこと」に重点を置いて設計されました。その功績は大変大きいものの、筋肉量に左右されるクレアチニンを指標にしているため、体格の良い現代の日本人、特に若年層では腎機能を実際より低く見積もってしまう(過小評価)ケースが多発しています。このコラムにたどり着いたあなたも、そんな1人かもしれません。
健診的に受けるeGFRはあくまで「スクリーニング(ふるい分け、絞り込み)」のための網です。そして、網を広く張る目的においては多少の過剰診断は許容されますが、腎機能が低下していると言われたとき、それが「本当にあなたの腎機能を正しく表しているのか」は、別途評価をすべきです。
シスタチンCが示す「過剰診断」の可能性
このズレを補完する指標として専門医が信頼しているのが「シスタチンC(eGFR-cys)」です。私たちの「腎ドック」のデータでは、eGFR-creで「ステージG3a」と判定された方のうち、シスタチンCで再評価するとほぼ全例が正常範囲内に収まったという興味深い結果が出ています。
もしシスタチンCの方が信頼性が高いとすれば、実際の患者数は現在の半分程度まで減る可能性があります。シスタチンCを測定しなければ、一生涯「慢性腎臓病患者」というレッテルを貼られたまま過ごすことになるかもしれません。
なぜシスタチンCは広がらないのか
有益な検査であるにもかかわらず普及が進まない背景には、日本の保険診療制度の壁があります。シスタチンC検査は保険請求が通りにくい(査定されやすい)傾向にあり、医師には煩雑な書類提出が求められることもあります。正直なところ、この手間の多さが心理的なハードルとなり、検査を躊躇する医師が少なくありません。事実、「対応してくれる医師が見つからない」という切実な相談が私の元へ繰り返し届いています。
第三の指標「ウロモジュリン」が示す腎臓の生命力
そこで私たちが期待しているのが、腎臓そのものの予備力・生命力をダイレクトに反映する「ウロモジュリン」です。筋肉量や脂肪量に左右されず、元気に働いているネフロン(腎臓の最小単位)の量を教えてくれます。
私の未発表データでは、透析が必要と判断された患者さんの透析開始時の数値は、全例で50ng/mL未満でした。逆に言えば、ここまで下がらなければ透析にはなりません。
eGFR-creが多少低くても、ウロモジュリン値が十分に保たれている方はかなりいます。シスタチンC同様に、ウロモジュリン値の確認によって、過剰な心配から解放される方も少なくないはずです。
結論:制限だらけの人生ではなく、楽しむための腎臓管理を
真面目な患者さんほど、透析を恐れるあまり食事や行動を極端に制限し、腎臓を守ることが人生の目的になってしまうことがあります。しかし、人生は一度きりです。多角的な視点を持つことで、まずは真の評価に近づき、「正しく知り、正しく恐れること」、「厳格な制限や管理が必要な状態なのか」を担当医と相談するチャンスを得てほしいと切に願っています。
最後になりますが、私が活動を続ける中で、同業の医師から「そんなにCKD患者を見つけてどうしたいの?」と問われることがたびたびあります。私の意図はその真逆です。治療が必要な方を適切な医療へ導くと同時に、不十分な評価で「病人」というレッテルを貼られた患者さんを解放したいのです。
私は医師ですが、現在は検査に関わる立場として、「診断」ではなく「診断基準への妥当性」に言及するスタンスで仕事をしています。
「あなたの腎臓の本当の力はこれくらいだから、まだまだ人生チャレンジしてください」と背中を押すこと。正確な個別評価を提供することこそが、真に治療が必要な人へ適切な医療を届ける唯一の道であり、さらには、腎臓病を予防しながら人生を楽しくする道でもあると、私は確信しています。
専門医による相談サービス
腎臓病について相談できる医師を探すのは意外と大変です。株式会社レノプロテクトでは、専門医と気軽に相談できる窓口を設置しています(私、臼井亮介を指名できます)。十分な時間を取って相談に乗っていますので、お気軽にご検討ください。
