シスタチンC
- 臼井亮介
- 2024年2月1日
- 読了時間: 9分
更新日:6月18日
こんにちは。株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介(日本腎臓学会専門医・指導医)です。
シスタチンCに関して詳しく解説されたサイトはまだ多くありませんので、丁寧に、そして、深掘りして解説します。

シスタチンCは、全身の細胞で作られている小さなタンパク質で、腎臓を通して排泄されるため、腎機能の評価に利用されます。クレアチニンと同様に、腎機能が低下すると血中濃度が上昇しますが、シスタチンCはクレアチニンと比べて筋肉量、体液量、食事内容、運動習慣といった影響を受けにくく、より安定して腎機能を評価できると言われています。
シスタチンCの最大のメリットは、クレアチニンよりも早期の腎機能低下を検出できる点です。クレアチニンは、腎機能が半分程度まで低下しないと明確な異常が現れにくい「ブラインド領域」の問題があります(ブラインド領域については「クレアチニン」のコラムをご確認ください)。シスタチンCにもブラインド領域があるものの、腎機能が約2割低下した段階から検査値が上昇し始めます。そのため、クレアチニンが苦手とする腎機能が7~8割残っている段階(健常~概ね未病段階)をより正しく評価ができる検査なのです。
これを逆手に取れば、若く健康なうちに一度シスタチンCを測定しておくことで、将来の数値との比較が可能になり、腎機能がどの程度保たれているかをより正確に把握することができるようになります(健康な時の数値と比べて上昇していなければ腎機能が7~8割以上は残っている可能性が高いと判断できます)。特に20~30代のうちに一度確認しておくことをおすすめします。
なお、シスタチンCの測定方法が検査センターによって異なるため、基準値は検査センターごとに若干差があります。一般的には、男性で0.6~0.9mg/L、女性で0.5~0.8mg/Lが正常範囲とされています。ただし、腎機能の評価にはシスタチンCの数値そのものではなく、そこから算出される「eGFR(推算糸球体濾過量)」を用いるのが一般的です。そのため、シスタチンCの基準値そのものにこだわる必要はありません。
株式会社レノプロテクトの腎ドックでは、男女差がごくわずかである点を踏まえ、シスタチンCの正常範囲を男女共通で0.5~0.9mg/Lと設定しています。腎ドックではクレアチニン・シスタチンC・ウロモジュリンの3点測定を行います。その上で、結果の解釈につき、個別レポートを作成し返信しています。
上記以外のシスタチンCの特徴や取り扱い方も記載しておきます。
●原則として、腎機能はクレアチニン換算糸球体ろ過量で評価
痩せ型小柄高齢者以外のほとんどの方でクレアチニン換算eGFR値(eGFR-cre)よりもシスタチンC換算eGFR値(eGFR-cys)の方が高く出る傾向があります。30~50も高く出ることは珍しくなく、何を信じるべきか迷うケースもあります。特に若い方でこの傾向は顕著です。
また、高齢者を除くと、eGFR-creで慢性腎臓病(CKD)ステージG3a(eGFR 45~60)と診断された方の多くで(実感として8~9割以上)、eGFR-cysで評価すると60以上となり、CKDの診断基準から外れる可能性があります。誰しも「腎機能は高くあってほしい」と思うものなので、より高い値を示すeGFR-cysの方が“本当の自分の腎機能”に近いと考えたくなる気持ちは理解できます。しかしながら、現時点では、腎機能評価の基本はあくまでもeGFR-creです。シスタチンCはあくまで補助的なマーカーであることを理解しておく必要があります。
一方で、eGFR-creとeGFR-cysの平均値が実際の腎機能に近いという論文報告もあります。もしこれが正しいとなれば、eGFR-creは腎機能を過小評価し、eGFR-cysは過大評価している可能性があるということになります(eGFR計算式は日本人のために作られたものを使っています)。現在日本の慢性腎臓病患者数は、2015年推定で1,480万人、2024年推定で約2,000万人もいることになっていますが、eGFR-cys値や、eGFR-creとeGFR-cysの平均値で腎機能を評価することが正しいのであれば、推定患者数はおそらく500万人ぐらい、もしくはそれ以上に患者数は減ると思います。
ただし、腎疾患の医学的なエビデンスのほぼ全てはクレアチニンで評価されています。最近の研究論文ではシスタチンCの評価も入れているものも増えてきましたが、それであっても、クレアチニンによる評価を最優先すべきと私は考えています。
繰り返しになりますが、腎機能評価の基本はクレアチニン換算eGFR(eGFR-cre)で行うという原則を押さえておくことが大切です。
●シスタチンC測定値の変動とその要因
シスタチンCは、一般的にクレアチニンよりも安定した腎機能推定マーカーとされています。しかし、実際に多数の症例で繰り返し測定を行うと、シスタチンCにもおおよそ5〜10%程度の変動が見られ、必ずしもクレアチニンより変動が少ないとは言い切れません。このため、1回限りの測定値を過信せず、複数回の値を比較・評価することが大切です。なお、シスタチンCは比較的新しい指標であり、実臨床での活用経験が豊富な腎臓専門医も限られています。測定値の変動に影響を及ぼす因子についても、まだ十分に解明されていない点が多く残されています。
そうした中で、近年注目されている変動因子のひとつが「肥満」です。シスタチンCは筋肉量の影響を受けにくいとされていますが、脂肪細胞でも産生されることが分かっており、体脂肪量の多い人では血中濃度が高めに出る傾向があります。さらに、肥満に伴って生じる酸化ストレスや慢性炎症も、シスタチンCの上昇に関与している可能性があります。体格の大きな方では、筋肉量だけでなく脂肪量の影響も加わることで、クレアチニン・シスタチンCのいずれを用いた腎機能推定値(eGFR)にも誤差が生じやすくなる(腎機能が悪く評価されがち)と考えられます。
そのほかにも、以下のような要因がシスタチンC値に影響を与える可能性があると報告されていますが、いずれもエビデンスは限定的です:
高値となる原因として、腎機能低下以外に、「悪性黒色腫や直腸がん、甲状腺機能亢進症、ステロイド内服」
低値となる原因として、「甲状腺機能低下症、HIV感染症、シクロスポリン内服」
●シスタチンCはマーケティングに失敗した検査
(ここは読み物としてお読みください)
シスタチンCは、クレアチニンでは難しかった腎機能低下の早期発見・早期介入が可能になると期待されて登場しました。腎機能が悪くなる“前”から異変をとらえることができる――そんな魅力的な特性を持つ検査だったのです。しかし現実には、そのような使い方をされる場面はほとんどなく、期待されたほどには、臨床現場での普及が進んでいません。
■保険適用による測定制限
現在、シスタチンCの保険適用は次のように制限されています:
「尿素窒素またはクレアチニンにより腎機能低下が疑われた場合に、3か月に1回に限り算定できる」
これは言い換えると、「クレアチニンで異常が出たときに、その結果が本当に腎機能低下を示しているかどうかを確認する補助診断として測定しても良いですよ」という位置づけです。つまり、クレアチニンで異常が出て初めて測定できる検査ということです。
実際の臨床では、クレアチニンで腎機能低下が疑われても、医師からは「水分をしっかり取って再検査してみましょう」や、「(運動習慣がある人では)運動を控えてからもう一度測りましょう」と言われることが多く、シスタチンCをすぐに測るケースは非常に稀です。
クレアチニン値が正常上限値を超えた時は、すでに腎機能が約半分になっていることを示唆します。つまり、保険診療においては、「腎機能が半減したと疑われる段階にならないと、原則的にはシスタチンCを測定することが許されない」という運用になってしまっているのです。さらに、地域によっては「なぜシスタチンCを測定したのか」を詳しく書類で説明しなければ保険請求が認められないという実情もあり、これも普及の障壁となっています。
■日本の医療制度との相性の悪さ
日本では、国民皆保険制度のもと、基本的にすべての医療行為が保険診療として行われます。保険証は「病気が疑われたとき」に使える割引チケットのようなものです。そのため、「健康であることを確認するための検査」には使えないという原則があります。このため、シスタチンCが本来得意とする「未病段階(腎機能が悪くなる前)のチェック」という使い方は、保険診療では許されないのです。
■専門医も使いこなしていない
2004年に保険収載されてから20年が経過していますが、シスタチンCは今もあまり使われていません。本来であれば、新しい検査は専門医が中心となって使用経験を蓄積し、徐々に非専門の医師にも広がっていくものです。ところが、腎臓専門医はすでに腎疾患が確定した患者の診療を行っているため、あえてシスタチンCを使う必然性が乏しいのが現状です。専門医が使わなければ、その利点も周知されず、他の医師にも浸透しません。
■自由診療でこそ本領を発揮する検査
繰り返しになりますが、シスタチンCは健康~未病段階の腎機能評価にこそ価値がある検査です。保険診療と自由診療の混合は原則禁止ですが、シスタチンCの測定を自由診療(健康診断や人間ドック)で行えば、何の問題もありません。つまり「病気の発見」ではなく「健康の確認」のための検査と考えれば、健康診断や人間ドックのオプション検査として取り入れるべき検査なのです。
しかしながら、実際にはそのような利用もほとんどされていません。健康診断に携わっている医師の多くは、そもそもシスタチンCのことをよく知らないですし、知っていたとしても、その検査結果をどう解釈し、どのように受診者に伝えるかは簡単ではありません。というのも、上記の通り、クレアチニン換算のeGFRとシスタチンC換算のeGFRでは、数値が大幅に乖離することがほぼ全例で生じますから、専門的な知識なしには説明が困難だからです。
■まとめ
シスタチンCは、本来非常に優れた検査であるにもかかわらず、「早期発見」「健康評価」といった本来の用途が日本の保険制度と合わず、それでも保険収載されてしまったからこそ普及が妨げられてしまった大変残念な検査です。有用な検査もマーケティング戦略を見誤るとこういうことになります。
株式会社レノプロテクトの腎ドックではクレアチニン・シスタチンC・ウロモジュリンの3点測定を基本とし、腎臓専門医が結果報告書を個別作成し返信しています。リピーターの方には時系列データの提供と解説が付記されます。健康な時から定期的に腎臓を評価する習慣をお勧めしています。
<関連リンク>
■腎機能検査について理解を深めるために、以下のコラムもご確認ください。
■健康診断や人間ドックで腎機能がC判定となったことがある方は、
「気付きにくい慢性腎臓病 -腎ドック550例の分析から-」「健康診断の「C判定」 - その意味と向き合い方 -」のコラムもぜひご確認ください。