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尿素窒素(BUN)

  • 臼井亮介
  • 2024年1月1日
  • 読了時間: 4分

更新日:6月6日


 株式会社レノプロテクト代表の臼井です(日本腎臓学会専門医・指導医)。

 尿素窒素(BUN)は、検査項目としては毎回のように登場するのに、医師から詳しい検査説明を受ける機会が少ない、少し不思議な検査です。注目されにくい一方で、実は全身の状態や腎臓の働きを知るヒントになる大切な指標でもあります。ここでは「腎臓検査としての尿素窒素」についてわかりやすく解説していきます。



●尿素窒素とは?

 尿素窒素を一言でいえば、「血液中に含まれるタンパク質のカス」です。


 もう少し詳しく説明しましょう。


 私たちの体はタンパク質でできており、古くなったタンパク質はアミノ酸に分解されます。その分解過程で不要になったものや、有害なものは体外に排出する必要があります。アミノ酸の分解過程では、肝臓で「アンモニア」という毒性の強い物質が生じます。このアンモニアは、肝臓で無害な「尿素」に変えられ、最終的に腎臓を通じて尿として排出されます。


 この尿素に含まれる「窒素」を血液中で測ったものが、尿素窒素(BUN)です。



●尿素窒素が高いと腎臓が悪い?

 腎臓がきちんと働いていれば、尿素はスムーズに体の外に排出されます。しかし、腎機能が落ちてくると、尿素が体内に溜まり、血液中の尿素窒素の数値が上がってきます。


 そのため、尿素窒素の上昇は「腎機能が低下しているかもしれない」というサインの一つと考えられます。ただし、尿素窒素の数値だけで腎機能を正確に判断することは難しいのです。主な理由は次の2つです。


  1. 腎機能がかなり落ちないと数値が上がらない(=ブラインド領域が広い)

    尿素窒素の最大の弱点は、「ブラインド領域」が非常に広いことです。これは、腎機能がある程度悪くならないと、数値の変化が表れにくい領域のことです。

    たとえば、シスタチンCは腎機能が約20%低下した時点で数値が上がり始め、クレアチニンは腎機能が約50%低下した頃にようやく変化が出ます。ところが尿素窒素は、腎機能が70%ほど低下しないと明らかな変化が見られにくいとされます。

    つまり、尿素窒素は腎機能が軽く悪くなり始めた初期段階(=未病)では、ほとんど変化が現れません。この「早期の変化が見えにくい範囲」が広いため、腎機能の早期検出には向いていないという特徴があります。

  2. 腎臓以外の影響を受けやすい

    尿素窒素は、腎臓の状態に関係なくさまざまな要因で変動します。以下のようなケースが代表的です:

  ✅値が高くなる要因:

   肉や魚をたくさん食べた時、脱水、消化管出血、激しい運動後、

   ステロイドや利尿剤の使用 など

  ✅値が低くなる要因:

   極端な低タンパク食、妊娠中、肝機能低下 など

  また、性別や年齢によっても異なり、女性は男性より10~20%低く、小児ではより低くなります。一方で、60歳以上の高齢者では高くなる傾向があります。


  こうした多くの要因が影響するため、「腎臓の働きだけを評価する」目的では、尿素窒素はあまり適していません。


●それでも尿素窒素を測る理由──FeUNという指標

 では、なぜ腎ドックでは尿素窒素を測定しているのでしょうか?


 その答えは「FeUN(尿素窒素排泄率)」という指標にあります。これは、腎臓が尿素をどれくらい排泄できているかをもとに、水分のバランス(脱水状態かどうか)を評価できる検査です。


 腎ドックは、健康診断や人間ドックのオプションとして実施されることが多く、当日は食事や水分を控えた状態で臨むため、軽い脱水状態にある方が多くなります。脱水状態では血液が濃くなり、クレアチニンの値が実際よりも高めに出ることがあり、腎機能が悪く見えることがあります。その結果、「C判定(要再検査)」の判定となり不安になる方もいますが、再検査では正常値に戻るケースも少なくありません。こうした無駄な再検査(再検査自体は大切です)や不安を減らすために、FeUNは有用です。


 FeUNを計算することで、脱水の影響かどうかを見極めやすくなり、クレアチニンの解釈の精度が高まります。



<関連リンク>

 ここでもブラインド領域という言葉を出しました。ブラインド領域について詳しく知りたい方は、「クレアチニン」のコラムをご確認ください。

 なお、ブラインド領域という概念がないことを特徴とする「ウロモジュリン」もぜひチェックしてみてください。

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