腎臓内科医から見た、尿路結石症:痛みだけで終わらない将来の腎機能への影響について【腎臓専門医が解説】
- 臼井亮介

- 8月12日
- 読了時間: 10分
更新日:7 日前
こんにちは。株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介(日本腎臓学会専門医・指導医)です。
深夜から明け方にかけて、突如として背中や下腹部を襲うあぶら汗をかくほどの激痛。あまりの痛みで身動きが取れず、救急外来に運び込まれる——。
その痛がり様を一瞥した救急医は、重症患者が搬送されてきたというより、「ああ、あれだな」というクールな表情をしている。「検査よりまず痛みを取ってくれ!」と心の中で叫ぶものの、淡々と尿検査、超音波検査、CT検査が進み、「尿管結石症ですね」と診断が告げられる。
鎮痛剤と点滴が始まり、痛くてたまらないのに「どんどん水を飲んでください」と言われる。しばらくすると嘘のように痛みが引き、「近日中に泌泌器科を受診してください」と告げられて、汗だくの洋服、ボサボサの髪のまま午前中に帰宅する。
「ああ、痛みが引いて本当によかった。もう二度とごめんだ……」
そんな苦い経験をしたことがある方は少なくないと思います。私たち医師にとって、夜間救急で頻繁に遭遇する代表的な疾患、それが「尿管結石症」です。尿路結石症(腎臓から尿道までの尿路に結石ができる病気)は、一般的に「泌尿器科の病気」あるいは「救急外来で痛みを取ってもらう病気」というイメージが定着していると思います。
しかし、腎臓内科医の目から見ると、結石発作は決して「激痛だけの一過性のイベント」ではありません。むしろ、「慢性腎臓病(CKD)へ至る静かな警告音」であり、「全身の代謝異常・生活習慣病が目に見える形で現れたサイン」であることが少なくないのです。
今回は、意外と語られることの少ない「腎臓内科医の視点から見た尿路結石症」について、なぜ結石が腎臓を脅かすのか、そしてなぜ今、内科的な管理が必要とされているのかを詳しくお話しします。

尿路結石はありふれた疾患
まず整理しておくと、「尿路結石症」は腎臓から尿道までの尿路全体に結石ができる病気の総称であり、その中でも結石が尿管にある場合を「尿管結石症」と呼びます。尿路結石の多くは無症状ですが、尿管結石症は激痛を伴うことが多いのが特徴です。
この尿路結石症、実は非常に身近な病気です。患者数は最近10年ほどは概ね横ばいですが、この30~50年で見ると約2~3倍に急増しています。生涯罹患率は男性で7人に1人(約14%)、女性で14人に1人(約7%)と言われており、街を歩けば必ずすれ違うほどメジャーな疾患です。
増加の背景にあるのが、日本人の「食生活の欧米化」と「生活習慣病・肥満の増加」です。かつての尿路結石は、特定の体質や特殊な栄養状態によるものが中心でしたが、現代の尿路結石はまさに「生活習慣病の一種」。高カロリー・高脂質・高塩分の食事、運動不足、肥満、メタボリックシンドロームが尿の成分バランスを崩し、結石を作りやすい体内環境を作り出しているのです。
結石発作の陰に隠れた、静かに進む「腎萎縮」と「CKDリスク」
多くの場合、尿管結石症の経過自体は良好で、結石が膀胱に落ちるか体外へ出れば痛みは治まります。そのため「痛みが消えたからもう大丈夫」と思われがちです。しかし近年の疫学研究や臨床データから、「尿路結石を持つ人は、将来的に慢性腎臓病(CKD)へ進行するリスクが高い」ことが明らかにされてきました。
なぜ、結石ができると腎臓が傷ついてしまうのでしょうか?
閉塞性腎症と「サイレントな腎萎縮」
結石が尿管に詰まると尿の流れがせき止められ、尿管と腎盂(腎臓の出口付近)に尿が溜まって腫れ上がる「水腎症(すいじんしょう)」を引き起こします。これが激痛が始まってしばらくすると見られる状態ですが、本当に恐ろしいのは痛みが去った後です。
尿管結石症を繰り返すと腎予後が悪くなることは分かりやすいと思います。一方で、一時的な詰まりであっても、結石が通過するのに数日から数週間要することがあり、その間は腎臓の内圧が高まることで、腎臓は強いストレスを受けます。そして、それから5年〜10年という長い年月を経て、結石が詰まった側の腎臓が徐々に小さく縮んでいく「腎萎縮」を起こすケースが少なからず存在するのです。この腎萎縮は「全くの無症状」で進行するため、患者さん自身は何年も気づくことができません。
【コラム】10年同じ病院に勤務して気づいた「痛みの後の真実」
若い医師は成長や経験を求めて数年ごとに勤務地を変えるのが一般的で、5年、10年と同じ病院に勤務することは多くありません。そのため、尿管結石症の長期予後を自らの臨床経験として体感することは極めて難しいのです。
私自身、かつて同じ病院に10年間勤務した時期がありました。そこで尿管結石症の患者さんの5年以上の長期経過を多数追跡した際、「結石発作から5年以上が経過し、患側の腎臓が静かに萎縮してきた症例」が予想以上にいることに気づいたのです。
もちろん私の経験が全体を反映した事実かどうかは分かりません。しかし、臨床医として非常に強く記憶に刻まれた経験でした。
なぜ検査で見落とされるのか?片側性障害と「ブラインド領域」
「でも、結石のときに血液検査をして『問題なし』と言われたから大丈夫では?」そう思われる方も多いでしょう。しかし、ここには検査に伴う大きな「落とし穴」が存在します。
発作直後の検査の限界
何らかの原因で急激に腎臓がダメージを受けたとしても、血液検査の「クレアチニン値」が上昇してくるまでには半日以上の時間を要します。尿管結石症で病院を受診するタイミングは「激痛が起きてすぐ」であることがほとんどなため、発作直後の血液検査でクレアチニンが上がっていなくても、何も不思議ではないのです。
救急外来でクレアチニン値が高いことを指摘された場合は、尿管結石症以前からすでに腎機能が悪い場合や、激痛で汗をかきすぎたことによる体内水分不足を反映した一時的な変化の可能性が高いと考えられます。いずれにしても、救急外来でその後のフォローはしてくれませんから、後日改めて泌尿器科か内科で再検査が望ましいです。
片側性障害と「ブラインド領域」
腎機能の指標である「クレアチニン」には、「両方の腎臓を合わせた機能が半分近く失われるまで、機能低下を検出できない」、“ブラインド領域”と呼ばれる検査限界が存在します。
尿路結石自体は両側の腎臓にできることが多いですが、激痛を伴う尿管結石症のほとんどは「片側性(左右どちらか一方の尿管に詰まる)」です。つまり、仮に片方の腎臓が結石でダメージを受け、機能がかなり落ちたとしても、もう片方の正常な腎臓がカバー(代償)するため、全体としての腎機能データは保たれてしまいます。
基本的に片側性に生じる尿管結石症において、初期の血液検査だけで腎臓のダメージを見つけ出すことには限界があるのです。
尿管結石症を発症してしまうこと自体は仕方のないことですし、起きてしまった発作は過去のことです。だからこそ、血液検査の数値だけで安心するのではなく、超音波(エコー)検査やCT検査などで「腎臓の形や大きさ(形態)」を画像で定期的に確認・フォローアップすることが、腎障害の早期発見において極めて重要になります。
結石の「成分」から読み解く全身の異常
内科医は、尿路結石を診るとき、「どこに詰まっているか」だけでなく、「なぜその結石ができたのか」という背景に注意を払います。結石の成分は、患者さんの体内で何が起きているかを示す「タイムカプセル」だからです。これから結石の成分について解説を続けますが、実臨床では、排出した結石を患者さんが回収することは難しく、回収できたとしても成分解析まで行うケースはかなり稀であるのが現状です。
1. シュウ酸カルシウム結石(全体の約8割)
最も頻度が高いため、基本的にはまずこの成分を疑います。食生活(シュウ酸や塩分の過剰摂取)や水分不足が大きく関与しますが、腸管での代謝バランスも深く関係しています。
2. 尿酸結石(全体の約1割)
高尿酸血症(痛風)の方や、肥満・メタボリックシンドロームの方に見られる傾向があります。肥満に伴ってインスリン抵抗性が高まると、腎臓でのアンモニア産生が低下し、尿が酸性に傾きます。その結果、尿酸が溶けきれずに結晶化し、結石が形成されます。
3. リン酸カルシウム結石・シスチン結石など(全体の数%〜10%)
臨床的にはシュウ酸カルシウムと混ざり合った結石として認められることが多く、尿がアルカリ性に傾くことで形成されやすくなります。また、背景に原発性副甲状腺機能亢進症や、遺伝性の尿細管性アシドーシス、シスチン尿症といった稀な病気が隠れていることがあります。
腎臓専門医が教える!正しい予防医学と「食事のウソ・ホント」
初発の尿管結石症を予防する方法としては、十分な飲水量、適切なカルシウム摂取、そして減塩や野菜・果物を豊富に摂る食事療法(DASH食:高血圧症予防食)に明確なエビデンスがあります。しかし、一度も結石の激痛を経験したことがない人が、あえて結石予防のために食習慣を変える動機(インセンティブ)は働きにくいのが現実でしょう。
一方で、尿路結石症は「1年あたりの再発率が約10%、5年以内の再発率が約50%」と言われるほど、非常に再発しやすい病気です。だからこそ、痛みが引き、結石が排出された「その後」の再発予防こそが本番となります。
ここで、よくある誤解と腎臓内科的な正しい予防アプローチをご紹介します。
誤解:「カルシウムをとると結石ができるので控えるべき?」
⇒【誤解です】むしろ適量のカルシウムを摂取すべきです
「結石の主成分がカルシウムだから、摂取を減らそう」と考える方が多くいますが、これは大きな誤解です。
食事でカルシウムを十分に摂ると、腸管の中でほうれん草や紅茶、大豆などに含まれる「シュウ酸」とカルシウムが結合し、便として排出されます。逆にカルシウムを減らすと、浮いたシュウ酸が単独で腸から大量に吸収されて血液に入り、最終的に腎臓へ運ばれて尿中で結石を作りやすくなってしまうのです。食事からの適量なカルシウム摂取(1日600〜800mg)は、結石予防の基本です。
予防法①:1日2〜2.5Lの「尿量」を確保する
結石予防の基本中の基本は、「尿を薄めること」です。飲水量ではなく、「1日の尿量が2L以上」になるようにこまめな水分補給を心がけましょう。ただし、これを満たす飲水量は決して少なくないため、無理し過ぎないことも大切です。
予防法②:塩分(ナトリウム)を控える
「減塩=高血圧対策」と思われがちですが、結石予防にも極めて重要です。腎臓の近位尿細管では、ナトリウムとカルシウムが一緒に再吸収される(共輸送)仕組みになっています。塩分を摂りすぎると、余分なナトリウムを尿に捨てる際、一緒にカルシウムも尿中に漏れ出てしまい、尿中カルシウム濃度が上がって結石の原因になります。減塩は結石予防の特効薬なのです。
予防法③:動物性タンパク質の摂りすぎに注意する
肉類などの動物性タンパク質を過剰に摂ると体内で酸性物質が増え、尿が酸性に傾きます。また、骨からカルシウムが溶け出しやすくなり、尿中のカルシウム排泄量が増加してしまいます。
おわりに:結石は「腎臓からのSOS」
尿路結石症は、あまりの激痛という強烈なインパクトを与えるため、「あの痛みをどう取り除くか」だけに目を奪われがちです。しかし一歩引いて全体像を眺めてみると、尿路結石は「生活習慣の乱れ」「代謝の歪み」「隠れた内分泌疾患」、そして「将来の慢性腎臓病(CKD)へのサイン」という、腎臓からのSOSメッセージであることが分かります。
激痛が去った後も、あなたの腎臓は静かにダメージを抱えているかもしれません。尿管結石症を経験したことがある方は、ぜひ健康診断や人間ドックのタイミングで超音波(エコー)検査を受け、腎臓の形や結石の有無を確認してみてください。そして、結石症を繰り返さないため、また、結石症の原因を振り返り、生活習慣を見直すきっかけにしていただければ幸いです。
