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クレアチニンとは

いわゆる腎機能検査と言えばクレアチニンです。事実、血清クレアチニン測定は、腎機能検査(腎機能推定マーカー)として最も汎用されています。クレアチニンは毎日一定量が作られ、毎日一定量が腎臓から尿として排泄されています。腎機能が悪くなると排泄されにくくなり血液中に残ってしまいます。この性質を利用して腎機能を評価しています。一方で、クレアチニンそのものは筋肉由来の老廃物であり、実は腎臓とは全く関係の無い物質です。つまり、この血中濃度自体は腎機能と関係がありませんので、クレアチニン値と年齢から推算糸球体ろ過量(eGFR)を計算して腎機能を評価する必要があります(健康診断等で腎機能を見る時、注目して欲しいのはクレアチニン値よりもeGFR値です)。

また、以下のような特徴がありますので、知っておくと理解が深まります。

・筋肉量(体格)によって測定値に影響が及びます。

→クレアチニンは筋肉由来の老廃物のため、筋肉量が少ない人では測定値が低めになり(実際の腎機能よりも良く見えることがあります)、筋肉量の多い人では測定値が高めになります(実際の腎機能よりも悪く見えることがあります)。このように測定値が筋肉量に影響を受けることで測定値には男女差があり、一般的には男性の方が女性と比べて高くなります。また、一定強度以上の運動習慣や運動後は筋肉量に依存せずに測定値が高くなることがあります(筋疲労の影響)。しかし、あえて運動直後に採血検査をすることは普通しないので、影響の度合いは時と場合によるとしか言えません。運動後は次に述べる体液量変化の影響も出てきます。

・体液量(水分バランス)によって測定値が変動します。

→血液の濃縮や希釈の影響を受けやすく、これによってクレアチニン値は10%程度変動します。つまり、体内水分バランスによって腎機能が10%程度良く見えたり悪く見えたりするということです。例えば、多くの健康診断や人間ドックでは飲まず食わずの状態で検査が実施されるため、体内水分量が少なく、血液濃縮の影響を受けてクレアチニン値は高めに測定されます。1年の中では夏が最も高めに測定されます。また、妊娠中は体液量(血液量)が2~3kg増えるので、血液希釈により非妊娠時よりも0.2~0.4mg/dL低く測定されます(このため妊娠中は腎機能の正しい評価が困難です)。

 上記のように、健康診断ではクレアチニン値はやや高めに出やすい傾向があるのですが、飲まず食わずによってクレアチニン値が高く出たのか、それを差し引いても測定値が高いのか(本当に腎臓が悪い可能性)は採血条件を確認して再検査をしないと判断できません。安定した数値で見ていくためには採血条件のルールを決めておくことも必要と言えるでしょう。弊社の腎ドック(スタンダードプラン)では、健康診断や人間ドックのオプション検査として実施されることが多いため、FeUNという体内水分量の評価検査を同時に行い、クレアチニン値の評価精度を上げています。

・測定値が正常範囲内にあっても、正常とは限りません。

→腎機能が半分近くまで低下しないとクレアチニンは明らかな上昇を認めません。この腎機能低下を検出できない範囲(検査限界)を「ブラインド領域」と呼びます。これが、初めて腎機能低下を認識した時点で腎機能が半分しか残っていないことに愕然とする原因になります。言い換えれば、腎機能の約半分を失って初めて腎臓が悪いことを認識するということです。このブラインド領域の問題を少しでも解消するためには未病段階から推算糸球体ろ過量(eGFR)で評価することが求められています。ただし、eGFRはクレアチニン・年齢・性別から算出される数値のため、結局はクレアチニン値に最も大きく影響されますので、やはり限界はあります。

 ブラインド領域について理解度を上げていただくために、1つ例を挙げてみます。

 生体腎移植という医療をご存じでしょうか。健康な人が自分の腎臓を腎不全患者さんに提供することで、その患者さんは透析医療から解放される素晴らしい医療です。でも、腎臓を1つ摘出後に腎臓提供者の腎機能がガタガタと落ちて腎不全になってしまうようでは生体腎移植は成立しないことは誰でも理解できると思います。2つある腎臓を1つ摘出すると腎機能は半分になりますが、クレアチニンは0.2mg/dL程度しか上昇せず、正常上限値を著明に超えて悪化が確認されることはありません。これからも、腎機能が半分程度失われるまでクレアチニン値は明らかな上昇はしないということが理解できると思います。

 検査は病気を診断するためにありますので、クレアチニンの正常上限値は慢性腎臓病の診断基準となるeGFR60ml/min/1.73m2に概ね該当します。eGFRの正常基準値は約100のため、腎機能が約4割落ちた時点(eGFR値が100→60に低下)がクレアチニン値の正常上限値ということになります。クレアチニンの正常上限値を超えると腎機能は半分(eGFRはだいたい50)ということです。繰り返し書いてしつこく感じたと思いますが、クレアチニンの検査結果を判断する上で、大変重要なポイントですから覚えておきましょう。

・喫煙者は注意が必要です。
→喫煙習慣がある人では、クレアチニン値はやや低くなる傾向があります。つまり、eGFR値は高くなり、実際の腎機能よりも良く見えるということです。これは、喫煙習慣が腎臓に良いわけではなく、喫煙習慣が腎臓に負担をかけて糸球体過剰ろ過という状態にさせることでクレアチニンの排泄率が上がることに起因していると言われています。糸球体過剰ろ過は、糖尿病患者さんにおける糖尿病性腎症の初期と同じです。過剰ろ過状態を続けていると長期的には腎臓はへばりやすくなり、ある一時期を超えると悪化速度が不可逆的に早まることになります。

 クレアチニン値は筋肉量にも依存しますので、痩せた喫煙者はより腎機能低下が検出されにくい(隠れ腎臓病が多い)ことを意味します。ご注意ください。

<関連リンク>

eGFRについて

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