クレアチニン
- 臼井亮介
- 2024年3月1日
- 読了時間: 8分
更新日:6月25日
こんにちは。株式会社レノプロテクト代表の臼井亮介(日本腎臓学会専門医・指導医)です。
腎機能評価検査の基本中の基本となるのがクレアチニン。でも、「クレアチニンって、結局どれくらいの数値なら大丈夫なの?」 そう感じたことがある方も多いのではないでしょうか。結論から申し上げますと、対象者を見ずに検査値のみで正しく評価できるほどけっして単純ではありません。ここでは検査自体の意味や検査結果をどのように評価しているのかについて、専門医視点で丁寧に、かつ、深掘りして解説してみたいと思います。
いわゆる「腎機能検査」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのが、クレアチニンではないでしょうか。実際、クレアチニンは腎機能を推定する検査として、最も広く使われている検査項目です。
クレアチニンは、筋肉から毎日一定量が産生され、腎臓を経て尿中に排泄されます。腎機能が低下すると、この排泄が滞ることで血液中のクレアチニン濃度が上昇します。この特性を利用して、腎機能を間接的に評価しています。
とはいえ、クレアチニン自体はあくまでも筋肉由来の老廃物であり、腎臓そのものと直接の関係があるわけではありません。つまり、「クレアチニンの値」=「腎機能」ではないという点に注意が必要です。医療従事者であれば、経験的にクレアチニン値から腎機能のおおよその状態を把握できますが、一般の方がこの数値だけでご自身の腎機能を判断するのは容易ではありません。
たとえば、クレアチニン値が1.3mg/dL程度の値だった場合、「透析が必要になるのは6~8mg/dLくらいだから、まだ心配いりませんよ」といった説明を受けることもあるかもしれません。しかし、それだけで安心してしまうのは少し危険です。実はこの段階でこそ、腎機能についてもう少し深く知っておくことが大切です。
クレアチニンの値から腎機能を評価するためには、クレアチニン値と年齢から算出する「推算糸球体ろ過量(eGFR)」を確認する必要があります(健康診断等で腎機能を見る時、注目して欲しいのはクレアチニン値よりもeGFR値です)。たとえば先ほどのクレアチニン1.3mg/dLは「ほんの少し高いだけ」に見えるかもしれませんが、eGFRを計算すると40-50程度となり、腎機能がすでに半分以下にまで低下している可能性があるのです。こうした場合、次に確認すべきは「本当にクレアチニンが自分の腎機能を正しく評価しているのかどうか」です。この判断にシスタチンCを使うことがありますし、腎臓疾患に明るい医師であればシスタチンCを測定せずとも的確に判断して分かりやすく説明してくれるでしょう(シスタチンCについてはコチラを参照ください)。
なお、eGFRはクレアチニンのわずかな変動でも数値が大きく動くことがあります。特に腎機能が正常な方では顕著で、クレアチニン値がわずか0.05変化するだけで、eGFRは5程度も変化します。クレアチニンの0.05は無視できても、eGFR5はちょっとドキっとしますよね。こうした変動がかえって不安や心配の原因になる場合もあるため、腎機能の大まかな評価にはeGFRを、推移の確認にはクレアチニン値を使い分けて説明する医師も少なくありません。
基準値
男性 1.1mg/dL未満
女性 0.8mg/dL未満
また、以下のような特徴がありますので、知っておくと理解が深まります。
● 筋肉量(体格)の影響を受けます
クレアチニンは筋肉から生じる老廃物です。そのため、筋肉量が少ない人では血中濃度が低めに出やすく、実際の腎機能よりも「良く見えてしまう」ことがあります。一方、筋肉量が多い人では数値が高く出るため、「悪く見えてしまう」可能性があります。このように測定値が筋肉量に影響を受けることで測定値には男女差があり、一般的には男性の方が女性と比べて高くなります。
また、一定強度以上の運動習慣や運動後は筋肉量に依存せずに、筋疲労により一時的に測定値が高くなることがあります。通常、運動直後に採血を行うことはしませんから、その影響は時と場合によります。運動後は次に述べる「体液量の変動」の影響も加わります。
少し脱線しますが、運動不足や筋肉量の低下を見抜くことに使うこともあります。たとえば、55歳男性で175cm、85kgと、見た目はかなり大柄に見える方のクレアチニン値0.70mg/dLであった場合、腎機能はたしかに問題無いかもしれませんが、「運動習慣がなく、筋肉量も少ない(体脂肪や内臓脂肪が多い)」の判断材料にすることがあります。
● 体液量(水分バランス)でも数値は変動します
クレアチニン値は血液の「濃さ」に影響し、これによってクレアチニン値は10%程度変動します。つまり、体内水分バランスによって腎機能が10%程度良く見えたり悪く見えたりするということです。たとえば、健康診断や人間ドックでは飲まず食わずの状態で検査が実施されるため、検査時の体内水分量が少ないことでクレアチニン値は高めに測定されます。1年の中では夏が最も高めに測定されます。また、妊娠中は体液量(血液量)が2~3kg以上増えるので、血液希釈により非妊娠時よりも0.2~0.4mg/dL低く測定されます。このため妊娠中は腎機能評価が困難です。
クレアチニン値が高めに出たとき、体内水分量が少ないことで高く測定されたのか、それを差し引いても測定値が高いのか(本当に腎臓が悪いのか)は、採血条件を確認して再検査をしないと判断できません。安定したデータを得るには、検査条件を可能な範囲で統一することも重要です。株式会社レノプロテクトの腎ドック(スタンダードプラン)では、健康診断や人間ドックのオプション検査として実施されることが多く、こうした変動を補正するためにFeUNという水分評価の検査も併用し、精度を高めています。
● 正常範囲内にあっても安心できるとは限りません
クレアチニン値は、腎機能が半分ほど低下するまで目立った上昇を示さない傾向があります。つまり、正常範囲内にあっても、すでに腎機能はかなり落ちていることがあるのです。この“検出されにくい領域”は「ブラインド領域」と呼ばれます。多くの慢性腎臓病の患者さんが、初めて腎機能低下を認識した時点で自分の腎機能が半分しか残っていないことに愕然とされます。この原因を作っているのがこのブラインド領域です。このブラインド領域の問題を少しでも解消するためには健康な時から推算糸球体ろ過量(eGFR)で評価することが求められています。ただし、eGFRはクレアチニン・年齢・性別から算出される数値のため、結局はクレアチニン値に最も大きく影響されますので、やはり限界はあります。
ブラインド領域について理解度を上げていただくために、1つ例を挙げます。
生体腎移植という医療をご存じでしょうか。健康な人が自分の腎臓を腎不全患者さんに提供することで、その患者さんは透析医療から解放される素晴らしい医療です。腎臓を貰えた患者さんはラッキーですが、提供した人は腎臓を1つ失うことになります。腎臓を1つ摘出したことで腎機能がガタガタと落ちて腎不全になってしまうようでは生体腎移植は成立しないことは誰でも理解できると思います。2つある腎臓を1つ摘出すると直後は腎機能は半分になりますが、クレアチニンは0.2mg/dL程度しか上昇せず、正常上限値を著明に超えて悪化が確認されることはありません。このことからも、ブラインド領域の存在、つまり、腎機能が半分程度失われるまでクレアチニン値は明らかな上昇はしないということが理解できると思います。
検査は病気を診断するためにありますので、クレアチニンの正常上限値は慢性腎臓病の診断基準となるeGFR60ml/min/1.73㎡に概ね該当します。eGFRの正常基準値は約100のため、腎機能が約40%低下した時点(eGFR値が100→60に低下)がクレアチニン値の正常上限値ということになります。クレアチニンの正常上限値のちょっと手前は、たしかに慢性腎臓病が疑われないことを意味しますが、腎機能が正常(eGFR>90)というわけではなく、むしろ、腎機能の残りが60%台ぐらいであることを強く示唆します。
クレアチニンが正常上限値を若干でも超えると腎機能は約半分(eGFRはだいたい50)ということを理解できたでしょうか。繰り返し書いてしつこく感じたと思いますが、クレアチニンの検査結果を判断する上で、大変重要なポイントですから覚えておきましょう。
● 喫煙者は特に注意が必要です
喫煙習慣がある人では、クレアチニン値はやや低めに出やすく、eGFRは高めに算出されてしまう傾向があります。つまり、実際の腎機能よりも良く見える可能性があるということです。当然ながら、喫煙が腎臓に良いわけではありません。喫煙が腎臓に過剰な負荷をかけ、「糸球体過剰ろ過」を引き起こすためと考えられています。糸球体過剰ろ過では、クレアチニンの排泄率が上がることで血中のクレアチニンが減り、腎機能が良く見えてしまいます。糸球体過剰ろ過は、糖尿病患者さんにおける糖尿病性腎症の初期と同じです(アルブミン尿が出ている状態)。過剰ろ過は一時的に腎機能を良く見せますが、長期的には腎臓を疲弊させ、悪化スピードが加速していきます。
さらに、喫煙者には痩せ型の方も多く、筋肉量が少ないことでクレアチニン値がより低く出がちです。そのため、腎機能の低下が検出されにくく、いわゆる「隠れ腎臓病」が多くなります。喫煙者の方は、この点にも十分ご注意ください。
いかがでしたか。クレアチニンについて深く知ることで、腎臓の健康状態をより正しく理解することができます。ご自身の身体について、少しだけ立ち止まって考えるきっかけになれば幸いです。
ただし、正しい判断は医師に委ねることが大切です。主治医がいる方は、主治医の専門の如何に関わらずまずは一度相談してみてください。気軽に聞ける医師がいない方は、腎臓専門医があなたの疑問や心配に直接対応する「専門医による相談サービス」を提供していますのでぜひご利用ください(リンクは下記)。
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■健康診断や人間ドックで腎機能がC判定となったことがある方は、「気付きにくい慢性腎臓病 -腎ドック550例の分析から-」のコラムもお読みください。
■検査や腎臓についての相談は、「専門医による相談サービス」からご確認ください(私、臼井の指名が可能です)。